「守れ!北海道の『生産空間』」シンポジウム(中)講演詳細・セコマ

北海道開発局は2月28日、札幌市教育文化会館で「守れ!北海道の『生産空間』〜地域が存続していくために今何が必要か」と題したシンポジウムを開催、セコマの丸谷智保社長が「地域と共に歩み存続する経営」と題して特別講演を行い、物流を中心とした取り組みを説明した。

同社長は、「原料生産・調達・食品製造(農業生産法人、水産物の買付・加工、食品製造)」「卸・物流」「小売・外販」と展開しているグループの概要とサプライチェーンについて説明し、「農場は北海道・関東に7箇所120ha、製造工場は道内11市町に21箇所、物流拠点は道内15箇所・本州3箇所、トラック210台で1日の配送距離は7万kmにのぼる。店舗は道内175市町村に展開し、人口カバー率は99.8%と全道を網羅している。グループの従業員は約2万1000人で、このうち農業に220人、製造業に2500人、卸・物流に800人、小売業に1万7000人がそれぞれ従事している」と述べた。

過疎地は「生産空間」であり、「農畜産物や水産物等、消費者の口に入るものは過疎地から供給されていることが多く、その意味では、都市部も過疎地も一心同体の関係にある」と強調。過疎地の課題として、「今や『無医村』から『無店舗村』へとうつっている」とし、このような地域で小売業を成立させるのが難しいため、実際に撤退しているケースが増えていると報告。「小売店が1件もなくなった過疎地では、住民から出店の陳情を受けることが増え、そのためにも物流が重要となっている。北海道での物流は、札幌を中心として星型・放射線状にモノが流れる構造にある。この物流網を構築するのに20年くらいかかった」と述べた。

過疎地への出店事例の一つとして、住民約900人の集落である紋別市上渚滑地区でのケースを紹介。「小売りチェーンが撤退して無店舗村となった。通常の店舗なら運営が難しい条件だが、地域住民有志による期成会が600万円を出し合って土地を購入し、建物を解体し、更地にして自治体に寄付をした。自治体がそれを受け、店舗建設費用の半額を助成した。このため、地代が無料で、建物の建設費用が半分となり、通常のケースより安価な出店原価となった。その分、イートインスペースを広く設け、都市間バスの待合所としても活用してもらうよう、公共性に配慮した」と説明。
このような条件で出店・運営をまかなえる体制を考えたとし、住民へのヒアリングの結果、営業時間は「6:30~20:00」に設定。「営業時間は13時間30分のため、パート従業員が2人いれば運営が可能となり、その分、人件費を抑えられ、また、光熱費も大幅に抑えられる」とし、さらに、既存の配送ルート上に店舗があるため、「従来の配送の途中に1つ台車をポンと降ろせばいいだけなので、物流コストが実質かからない」と解説。地代、人件費、光熱費、物流コスト等が抑えられるので、「従来より売上が少ない店舗でも成立すると考えた」と話した。

また、グループのサプライチェーン全体での利益構造も考えたとし、「グループには、製造、物流、小売の部門があり、小売部門での利益が仮に振るわなかったとしても、この店舗運営にかかる製造・物流部門では利益を出しており、これら全体の利益を足したのがグループ利益と考え、地域の存続のためにも店舗を出そうと判断した」と述べた。

実際に過疎地に出店してみると「意外なことを発見した」と報告。「この地域には、建設中の新国立競技場にも使用される素晴らしい集成材を扱っている木材事業者がおり、このようなことは出店するまで知らなかった。この素晴らしい集成材は新しい店舗の部材として採用した。道内様々な地域に出店してみたら『こんないいものがあったのか』という気づきが多くあり、このような事例は枚挙にいとまがない」とし、昆布やハスカップなど、その地域ならではの産品を活かした商品開発を進められるようになったとした。

また、地域産品をグループのサプライチェーンの中で製品化し、外に売るというケースも増えているとし、「現在、外販の売上高は約165億円にのぼり、全体の1割近くにまで増加している。特に牛乳はグループ内では1500万本だが、外販向けは1600万本であり、外販の方が多くなっている。今後も道内の過疎地域の産品等を掘り起こし、一緒に存続していくことを重視している」と述べた。

「重要なのは、地域住民、行政、民間の3者がお互いにリスペクトし、知恵をしぼり、生産空間を守っていくこと。『地域おこし』より『地域のこし』を考えることが先決で、その先に地域振興があるのではないか」と話し、「これを実現させる要素が物流だ。物流は地域を守るために必要。北海道胆振東部地震の際は、民間企業で最大となる20万個の物資を供給したが、それも物流のなせるわざ。2016年に新築・移転した釧路配送センターでは、100%自家発電とし、燃料油を3万5000kl備蓄、3週間程度はトラックでの配送が可能な体制としている」と強調した。

このほか、物流効率化のために、グループのサプライチェーンの中で効率的に組み合わせを行っている事例を説明。「札幌から稚内まで商品を運び、稚内近郊で牛乳を集荷して旭川の物流センターに戻る。旭川のセンターでは北見方面の便に牛乳と野菜をドッキングさせて配送し、北見近郊からは加工野菜、漬物などを載せて戻って来る」という工程の一例を紹介。
広い北海道では、このようにできるだけ無駄のないような物流を展開することが重要と話した。(続く)

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