2024年度スタート 今後の北海道の物流の流れは?課題は?「北海道物流WEEK」から考える

物流の「2024年問題」に関して様々な課題や懸念が広く指摘される中、いよいよ2024年度がスタートした。物流課題が山積する北海道では今後、どのような動きが見られるのだろうか。また、どのような課題があるのだろうか。

北海道は、物流に対する意識、また、2024年問題に関する危機感が高い。それは「面積が広大で人口が少なく、今後、人口の減少や過疎化がさらに加速する」という、対応が難しい現実に直面しているからといえる。これは「輸送距離が長く、人口密度が低く、荷物が少ない」エリアにおいて物流事業を展開するということであり、物流関係者の多くは、これらの課題が今後、ますます厳しくなっていくと認識している。
また、加工食品や日用品などの大量の生活必需品は一旦、札幌を中心とする道央エリアに集められ、そこで仕分けされて放射状に道内各地に運ばれるケースが多い一方、豊富な一次産品は地方(生産空間)から道央エリアに一旦運ばれ、ここで保管や仕分け、消費されるケースが多い。しかも、一次産品は収穫時期にあわせて出荷されることが多いため、季節によって波動が大きい。道央発と地方発の荷物は双方、「トラックによって片道をチャーターで運行」するケースが一般的であり、このため、片荷輸送が多く、輸送効率が悪いという実情だった。
こういった「構造的に物流が難しい」エリアにおいて、2024年度がスタートすると、ただでさえ成り手が十分ではないトラックドライバーの労働時間や拘束時間が削減され、マクロで見ると、輸送能力の供給量が減ってしまうことは避けられない。このため、「北海道で今後、物流は維持できるのか」と多くの関係者が強い問題意識を持っていた。

このような中、北海道では2024年度となるまで残り「1000時間(1カ月あまり)」となる2月19日を皮切りとして、北海道では、北海道開発局・北海道経済産業局・北海道運輸局が同日を含む1週間を「北海道物流WEEK」と位置づけ、物流に関するイベントや実証実験などを立て続けに開催、積極的な情報発信や啓発活動などを展開した。
この運動に対し、日本物流学会、北海道商工会議所連合会、北海道通運業連合会、北ト協、JR貨物北海道支社、北海道労働局、北海道物流研究会の各種団体・企業が協力、個別のイベントでは様々な物流企業や関連団体がそれぞれ主催や協力を行った。「2024年問題」を契機とした物流へのこれまでにないほどの関心の高まりの表れといえ、産学官が連携し、これほど集中的かつ広範に物流に関する取り組みが行われたことは道内では初めてのこと。全国的にもほとんど例がないだろう。「北海道物流WEEK」では、5つのイベントを直接取材し、その時間は約14時間に及んだ。事業者や識者、行政の担当官などのキーパーソンから示唆に富む知見や意見を多く聞けた。

「北海道物流WEEK」で明確に示されたのは、今後、北海道として、特に地方部での物流を維持するには、一言で言えば「これまでのようにいかない」「変えなければならない」という当たり前のことだ。

それは具体的に言えば、物流サービスを享受する側にとっては、「サービス水準の低下(納品回数の減少やリードタイムの延長などある程度不便になる)」か、「コストの増大(高くなる)」か、「その両方(不便で高くなる)」を受け入れる状況に来ているということであり、この中でもとりわけ、「リードタイムを伸ばす必要性」に強く焦点が当たった印象がある。
また、そのために「物流に関わる多くの主体が協調・共創していく必要性」があると強く打ち出され、さらに、これが「検討ではなく、実行・実装する段階」にあり、道内の有力なサプライチェーンでは既に取り組みが進んでいる実態も示された。

「協調・共創」という点では、行政の担当官からは「官民の垣根を越え、オール北海道で共創し、共にこの問題を乗り越えよう」、「限りある輸送資源を効率的に活用して道内にどう届けるか。全体最適を考える必要がある」、「物流が部分最適化しており、全体で連携し、北海道全体で考えなければならない」、「物流は共創領域、いかに北海道らしい物流を創るのかが私たちに課せられた課題」といった話を何度も述べており、これに呼応するように、民間企業からも「地方への配送が安定的にできなくなる可能性があり、協業を模索している。異業種との協業が必須である」(荷主企業)、「小売、メーカー、物流だけのそれぞれ個別対策では必ずどこかに歪みが出る。製配販が連携し、それぞれが妥協をしていくことが必要」(同)、「中継拠点の整備など1社では難しく、みんなで一緒にやろう」(大手物流企業)といった声が挙がった。

焦点が当たった「リードタイム」の問題では、これが伸びると場合によっては購入する商品の鮮度や品質がこれまでより落ちることもあるが、「リードタイム延長を検討するのではなく、それが前提であり、受け入れなければならない」ことを広く認識してもらう段階であると強く打ち出された。これは荷主企業のみならず、消費者も対象としている。
荷主企業からは「北海道全域にモノを届けるには、リードタイムの延長にフォーカスすべき。翌日に届けるとなると早朝や真夜中に働くことになるが、この人材がいない。リードタイムが変更されるなら、夕方の作業となり、働ける人がいるかもしれない。リードタイムを伸ばすことは、いろいろな施策のベースになる。そうしないと運び続けることが難しくなる」といった切実な声が挙がった。
同様に、「共同配送が必須と感じているが、リードタイム納品要件などが問題。リードタイムを調節できると物流の効率は高まり共同配送の実現度が高まる」、「リードタイムが延びることを各所に認めてもらえれば、道内輸送を鉄道にモーダルシフトできる可能性がかなり高まる」、「毎日配送を行うことを考え直すのも効果的。モノを貯めて、ドライバーに『割に合う荷物』を持たせるのも1つの解決策。明日来ないが明後日届くという発想の転換が必要」などの意見も多く聞けた。

一方で、「リードタイムを変更すると、店舗の発着時間や商品受注、集荷のタイミングも変えることになる。取引先にメリットがないと動いていただけない」、「納品作業や、取引先の店舗オペレーションに影響が出る。どういったことが譲れるか、強調できるか考え、歩み寄っていかねばならない」といった課題も挙がり、こういった点での協調をさらに進めていく必要性が示された。

地域全体で「物流漬け」の1週間となった「北海道物流WEEK 」では、「物流の2024年問題」への意識を高めるとともに、多くの主体が物流について連携・協調する必要性を訴えたインパクトのある取り組みとなった。運営を担った道内の行政担当者は、「官民が協力し、これだけ多くの参加者を集め、1つのことにむかって取り組むのは、物流に関しては初めてのことだ」と話す。

2024年度がスタートした後も、「北海道物流WEEK」をきっかけとしてできた「物流に関して産学官が関わる緩やかなつながり」を今後も維持していこうという動きが出ている。来年度、「北海道物流プラットフォーム(仮)」として組織化し、北海道の物流の全体最適化に向けて、引き続き検討し、実践する場を設定しようと協議が進んでいる。
同プラットフォームでは、北海道における物流課題解決や新たなチャレンジを実践、協力し合うなど、継続的な情報交換・情報発信の場として設立する予定。北海道における物流に関して、各主体が取り組みを検討していく中で、「部分最適」だけでは不足する部分を相談したり、「北海道物流WEEK」のように関係者が一体的に連携することで、インパクトが出るような企画について協力すること主眼としたい考えだ。
運営の中心は、「北海道物流WEEK」と同様、北海道開発局、北海道運輸局、北海道経済産業局が担い、これらの動きに賛同する有志を構成員とする。定期的な場を一定程度設定するとともに、構成員の発議を受けて、随時情報交換を行う予定。情報共有のためのメーリングリストの作成も検討している。行政の担当官は、「物流は誰か一人が頑張っても変わるわけではない。皆さんと共に、北海道の物流をよくしていきたい」と述べている。

一方、今後の動きとして、いくつか気になる点もある。

一つは「官(国や地方自治体等)がどこまで物流に関わるか(関わるべきか)」という問題。
産学官が連携し、「オール北海道」で物流効率化の取り組みを進める流れは、道内多くの関係者にとって「共通認識」になりつつある。しかし、民間企業が独力で「物流ネットワーク」などの基盤構築を進め、それを「競争力の源泉」として磨いてきた場合、とりわけここに官のプレゼンスが強まり、それが一部の民間企業とのみ連携を強くすることになると、民間企業の競争を阻害すると見られる可能性が否定できない。
「地域の物流を維持するため、行政に積極的に関与する」というのが、北海道における物流の大きな特徴であり、これを歓迎する向きは多い。しかし、「官がどこまで関わるべきか、その判断基準はどのようなものか」という議論はあまり行われていない。事業環境が厳しいので民間のみでは物流の維持が難しいという場合、ここに「官が入らなければならない」となると、今後、北海道では物流サービスが一定程度「公共事業」の領域に組み込まれるということも視野に入る。
また、一言で「協調」といっても、そのコスト負担、利益配分のあり方、責任の主体をどうするか、といった各論をいかに整理するかといった議論も必要となる。今後、こういった議論も広く物流業界の内外で行われていくべきだろう。

またもう一点、サプライチェーンの最適化・荷主の物流効率化といった場合、現在「物流実務を担っている側」にとっては、取り扱いの減少につながる可能性がある。1台のトラックの積載率や実車率を高める改善を進めれば、基本的に「荷物を取られる」トラックが出てくることになる。道央と地方の間をそれぞれ運行しているトラックを1台にして往復輸送を行うと、1台分の運行が丸々なくなることになる。また、保管や仕分けの拠点の集約やシェアを進めれば、どこかの拠点の扱いが減ってしまうことにつながる。
こういった場合に選ばれるサプライチェーンは、既に全道に輸送・保管等のネットワークを築き、安定的なベースカーゴを持つ一部の大手や有力企業となる可能性が高い。こういった一部メーカー・卸・小売・物流企業のネットワークに各種条件を合わせて「積み合わせ」を行えば、荷主にとっては「自社で物流を仕立てなくても全道に運んでもらえる」ことになり、特に地方部への物流の課題が解消するケースも出てくる。積んでもらうサプライチェーン側にとっても、トラックの積載率や実車率などの向上につながり、生産性向上や物流単価の低減が期待できる。
今後、こういった一部サプライチェーンが「道内物流のプラットホーム」として、荷物を集めつつ、生産性を高め、ますます強くなっていく可能性があるとするなら、結果、「強い企業に益々荷物が集まり、その企業の効率が益々高まる」という循環となる。これは「北海道全体」の物流を考えればいいこと(仕方がない)かもしれないが、「物流企業を個別」に見れば、割りを食う企業も相当数出てくる。

最後に、「北海道物流WEEK」の期間中に提起された上記のような議論は、多くが行政・荷主・学識経験者・全国規模の物流企業によるものだった。北海道における物流の2024年問題の当事者である地元輸送業界の団体や地場の企業が議論をリードする場面は少なく、とりわけ実務を担う運送会社や倉庫会社が「意見を強く発信する」ことはほとんどなかった。物流の2024年問題について関心がこれまでになく高まり、様々な議論や取り組みが進められているが、「当事者である北海道の物流事業者や業界団体が何を考えているのか、何を求めているのか、さらには何を実行しているかが全く見えない」というのが率直な感想だ。
これはこれまでも長く見られたことといえ、北海道ではとりわけ「物流業界からの情報発信」が極めて弱いのが実情だ。長く続いた「コロナ禍」においても、迫りくる「2024年問題」においても、物流業界から「何に困っているのか」「問題の原因は何なのか」「どのような対応が必要なのか」といったアナウンスを広く説得的に行うという動きはほとんど見られなかった。北海道において網羅的な物流の調査はこれまでも各種主体によって行われてきたが、その際も「物流業界発」というケースは極めて少なく、多くは行政や経済団体、調査機関によるものだった。最も事業者と接点があり、声やデータを集められる業界団体の存在感は薄く、それは「2024年問題」の際でも同様だった。
こうしている間に、2024年度がスタートし、行政や荷主などを中心に様々な議論や動きが進められているが、それが果たして「北海道の物流業界が望んでいる方向に進んでいるのか」さえわからない。

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