北海道開発局は2月28日、札幌市教育文化会館で「守れ!北海道の『生産空間』〜地域が存続していくために今何が必要か」と題したシンポジウムを開催、名寄商工会議所の藤田健滋会頭が「地域連携物流システム構築について」をテーマとして、名寄市を中心に「道北北部」で展開している物流効率化の取り組みの概要と課題を紹介した。
藤田氏は「人口が減少の一途をたどり、これに伴って地域に入ってくる貨物量が減り、大型貨物(卸売業者)の減少が顕著となっている。このため運送事業者数も10年で15%減り、この割合は道内で最も高い。大きなロットを輸送するトラックは片荷を余儀なくされ、物流コストが高くついてしまう。近年伸びている地域からの出荷貨物も、『物流コストの高騰の影響により競争力を失う』『運んでもらえない』という状況が予想される。出荷貨物に影響が出ると、『地域の稼ぐ力』が落ち、さらなる人口減少も懸念され、生産空間である地方の存続が危機に陥る。首都圏のアンテナショップ等で地域の産品を販売しても、売上高よりも物流コストの方が何倍も高くついてしまうようなことも実際にある」と現状を説明。
これまでの物流は「荷主と運送事業者が1対1の関係」でやりとりしていたが、この荷物が減っている現在、官民・団体など「地域をあげて効率化に取り組む」ことが重要課題となっているとし、このため、小ロットの貨物を道の駅などを利用して一定量にまとめ、ロットを大きくして効率的に幹線輸送を行う「地域連携物流システム」の構築に取り組んでいると説明。
地域物流会社として、同商工会議所のメンバーを中心に利用運送事業を手がける「道北ロジスティックス」を設立したことを紹介し、「まだ一部のみに営業をかけている段階で春から実験的な取り組みを進める予定。小ロットの製品をつくる生産者・事業者からは注目を集めている」と述べた。
また、「物流効率化の取り組みは、『まとめて運べば安くなる』と理屈としては簡単だが、実際には様々な問題がある。荷主、物流、小売のそれぞれの立場でリードタイム、コスト、頻度、サービスレベル、取引条件など様々な要素がからみ、簡単には進まない。垣根を取り払うのが大変だが、そうはいっても『地域の物流が本当に大変なことになる』という危機感を共有し、地域連携物流システムが本当に重要な取り組みだと1人でも多くの人に認識してもらうことが一番重要な課題となっている。注文すれば商品が届くということが当たり前になっているが、それは物流事業者の見えない創意工夫のおかげでもある。それが維持できなくなってきている」と強調した。
今後の課題として、「地域全体での危機感共有」「地域物流会社の継続性・収益体制等の基盤整備」「関連する企業との連携」「生産者と商流の再構築」などを挙げ、「道北北部では宅配事業者からも『運ぶのが厳しい』との声が聞こえてくる。生産空間と大消費地をどのように効率的に結ぶか、この春から実験的な取り組みを進めてみる」と述べた。
同シンポジウムのアドバイザーを務めた日本大学交通システム工学科の石田東生特任教授は、同地域での取り組みに対し、「商品が当たり前に届くということは、物流事業者の創意工夫や努力によって成り立っているが、それが限界に近づいている地域が出るということがすぐそこまで来ている。名寄市の動きは、社会システムを構築して地域を変えていくもので、高く評価したい」と述べた。
また、「生産空間を維持するために、物流において規制緩和できる部分はまだあるのではないか」とし、「道内各地で数多く行われている貨客混載では、バス・タクシー・JRに貨物を載せるものばかり、トラックに旅客を乗せる事例はない。これはトラックの運転手に2種免許が必要なことが大きく影響している。ただでさえ少ないドライバーに、免許取得の負担をかけるようなビジネスモデルは難しい。安全装置などを備えた車両については、一定程度の規制緩和の余地があるのではないか」と例示した。
「こういった地域の実情にあった要望を継続的にあげていくことが重要。これにより、行政が対応し、『遅々として進んでいく』という事例も多い」と話した。