日本気象協会北海道支社は11月16日、ANAクラウンプラザホテル札幌で「冬期のスタック車両と物流のあり方を考える」と題したシンポジウムを開催した。
北海道道路管理技術センター、北海道開発技術センターとの共催で、北海道開発局、北海道運輸局、北ト協、日本物流学会北海道支部などが後援した。
日本気象協会北海道支社の佐藤隆光支社長は「道内では一部の地域で平年より20日あまり遅い初雪が降り、本格的な冬が到来した。大型トレーラーなどが一度スタックすると、大規模な渋滞を引き起こし、物流における定時配送やドライバーの過密労働にも影響を与える。物流と道路管理が円滑に行われるよう、わかりやすく、具体的にリスクを喚起する気象情報の提供に取り組んでいく」と挨拶を述べた。
「冬期のスタック車両と物流のあり方を考える」をテーマにパネルディスカッションが行われ、北海道大学大学院工学研究院の荻原亨教授、北海道開発局建設部道路維持課の林憲裕道路防災対策官、NEXCO東日本北海道支社道路事業部事業統括課の加藤謹也課長、日本気象協会北海道支社事業サービス課の川村文芳氏らとともに、物流業界からは、北ト協理事・総務委員長の野村佳史氏(丸日日諸産業、札幌市豊平区)、ヤマト運輸道北主管支店(旭川市)安全推進課の引地俊勝課長、北海道物流開発(札幌市西区)の斉藤博之会長の3人がパネリストとして参加した。
現状について、野村氏は「スタック車両を起因とする交通障害に巻き込まれると、生産性が低下し、ドライバーの適正な労働時間も守れなくなる。このような状況下での配送の遅れに寛大な顧客もいるが、『他の運送会社は到着しているのに、何故来ないのか』などと現場を理解していただけないケースもある。冬期の配送のリスクについて、特に道外の顧客にはもっと理解してもらいたい」と報告。
引地氏は「幹線輸送、横持ち、宅配のどこでもスタックは起き、中でも宅配が最も多い。自然災害による配送の遅れが起きると、信用や業績への悪影響が出る」と述べ、斉藤氏は「大型車の若年ドライバーが減少するとともに、しっかりとした運行管理・整備管理が行われていない運送会社も少なくない。冬期間の運転や危機管理のノウハウの継承が行われなくなっている」と警鐘を鳴らした。
対策として、野村氏は「ボタンを押すだけでチェーンを装着する『オート・チェーン』を採用し、安全講習では気象状況が悪い場合、路側帯に避難し、配達の時間を延ばしたり、運行をさせないようにしている」とし、引地氏は「吹雪予測と交通障害を関連させた専門の気象情報を活用して、事前に到着予測時間や作業計画を策定し、最適な人員や車両台数を先取りで調整している。発荷主にも交通障害による遅延などの可能性を事前に提供することで、クレームが減った」と話した。
斉藤氏は「9月に発生した北海道胆振東部地震とブラックアウトでも経験したが、物流の現場は『発送の指示があればなかなか止まらない』。冬期の悪天候時など危険が大きい場合では、モノを売る側、買う側、運ぶ側のどこかで『車を動かさない』といった決定が行われる仕組みが必要。無理に運行しなくてもいいブレーキ機能があれば、スタックの発生も減る」と提案した。
野村氏は最後に「チェーン脱着場に屋根の設備」「道路の十分な除排雪体制」「峠の上り坂の全線2車線化」「通行止め解除時間の早期の情報提供」「スタックが多く発生する場所・原因分析の公開」などを求めるとともに、「荷主と運送会社の双方が安全優先の考え方にシフトすることが重要。異常気象時では、『JRが止まるのだから、安全のためトラックが止まっても仕方がない』といった認識を広く荷主や一般市民に広める必要がある」と強く訴えた。