地域の住民や地方自治体、NPO法人や民間企業など様々な主体によって、無料または安価で栄養のある食事や団らんを提供する「子ども食堂」。子どもの貧困や居場所づくりへの関心の高まりとともに、取り組み自体や物資の供給など支援の輪が全国に広がっている。
しかし、運営にあたって大きな課題となっているのが「物流」だという。設備や費用の問題から、「地方部を中心として必要な人に平等に届けられない」という偏在が起きているとともに、「誰が物流コストを負担するのか」という基本的な問題が簡単には解決できないようだ。物流企業の支援を求める声が高まっている。
北海道国際交流センター(HIF、函館市)と全国食支援活動協力会(MOW、東京都世田谷区)は6月3・4の両日、かでる2・7で「子ども食堂から食の物流ネットワークを考える」と題した勉強会を開催し、物流ネットワークの現状と課題などについての講演と意見交換が行われた。
東京都大田区でこども食堂「気まぐれ八百屋だんだん」を運営する近藤博子氏は「食は人と人の繋がりをつくったり、人の心を開くなどの力がある。こういった集まりの中で、成長をした子どもたちを多く見てきた。色々な所に十分にモノが行き渡る社会になればいいが、そのためには多くの人の知恵が必要。大きな所にはドンと食品が届くが、小さな所には届かないというばらつきがあり、再分配が重要。また、配送費を誰が負担するのかが問題。協力をいただいている大田区のある惣菜会社では、自社倉庫から地域のハブ拠点まで無償で配送してもらっているが、今後、持続的な物流システムを作るのは大人のこれからの課題」と話す。
こども食堂北海道ネットワークの松本克博事務局長も同様に「北海道では、一次受け入れの先からの物流機能がないのがネック。農業団体から大量のお米の寄贈をいただいた際は、自身で末端まで届けてもらうことをお願いした。支援いただく際は、ここまで関わってもらいたいというのが本音」と話す。
HI Fの池田誠事務局長は「食品が一度に10㌧車で届いたが、受け入れ先にフォークリフトや冷蔵・冷凍庫といった設備がなく、十数人のスタッフで荷物を手作業で取りおろすこともあった。最初は『いいな』と思ったが、『どうやって子どもの口まで届けるか』という問題がコストと機能の両面から課題となった。また、冷凍食品が大量に届いた際は、事務所の冷凍庫に入る量ではないため、急遽、地元ボランティア団体で冷凍庫を持っているところと繋いでもらった」といった経験を語る。「北海道では荷物を受ける所と運ぶ手段が十分ではない。必要な所に必要なモノを届けるチャンスはあるが、実行できないということになり、面倒なので送らないことにつながりかねない」話す。
MOWの平野覚治専務は「子ども食堂へ提供される食品は、一般的に価格がそれほど高いものではないが、かさむものも多く、これをそれぞれの食堂へと運ばないと子どもたちの口に入らない。送料よりも中身の商品価格の方が安いこともあり、効率的な物流が必要となる。また、大都市圏には豊富な物資が届けられるが、北海道や四国、九州などの地方は、物流の面から避けてくれということもある。結果、いつも大都市圏の同じ所に良いものが届き、一方で食品ロスが発生するということもある」とし、「子どもらの居場所づくりのため、年金で食品を購入し、善意で配っているケースもあり、配送費を負担出来ないという受け入れ先も少なくない。メーカーでは昨今、共同配送が普及しており、子ども食堂への支援物資の供給の際でも、複数荷主の商品を、複数の運送会社が運ぶスキームを構築することは可能。社会貢献として、物流機能の提供は考えられないか」と指摘。
MOWでは、企業などからの寄付物品を受け入れる「中核拠点」と、細分化して分配する機能を有する「ハブ拠点」を設け、地域の小規模なこども食堂などが企業の支援にアクセスできる「ミールズ・オン・ホイールズ ロジシステム」を整備している。
この活用によって、企業は持続的に支援活動をおこなうことが可能となるが、北海道では「まとめて荷受けできる機能とスペースが不足している。北海道まで運ぶ手段と、大きな寄贈の受け入れが可能な倉庫、道内での拠点間や末端までの輸送手段が不足している」と話す。「その場だけの花火にならないよう、北海道でテストを行い、知見を積み、どうしたら継続的に物流機能が提供できるのか考える必要がある。子どもや高齢者、社会的な弱者を助けることにつながる」と話す。
こういった声に応えている物流企業も存在する。
首都圏物流(駒形友章社長、東京都板橋区)は、東京都や埼玉県で子ども食堂への物流支援を積極的に取り組んでいる。駒形社長は「みかん箱サイズを宅配便で運ぶのに通常1000円程度かかる。これが50ケースなら5万円のコスト。中身が1000円以下の場合もあり、効率的かつ低コストで運ぶことが求められるため、ミルクラン方式で配送している。5月に支援した東京都での事例では、食品と飲料58ケースを4カ所に届けた。ワゴン車で1周60キロのコースを3時間程度で配ったが、これならそれほどコストはかからない」と紹介。
「もともと『物流の力で何かできることがあるのでは』と、埼玉県でフードパントリーの物流支援を始めたのがきっかけ。同県内に100台程度の車両を抱えており、全域をカバーする配送ネットワークがあった。納品は午前中にほとんど終わり、午後は多くの車両が空いていたため、納品帰りの車両を活用すれば対応できると判断した。業務の負担が増えるため、従業員に相談したところ、『ぜひやるべき』との反応があり、無償で10団体への配送からスタートした。この物流支援が、各種報道や県の情報発信によって話題となり、支援先が56団体にまで増加した。最初10カ所程度と簡単に考えていたが、5倍以上に増えてしまい、仲間の協力を得ながら物流を繋いでいる。現在は2トン車や4トン車が必要な時もある」と説明する。
子ども食堂への支援について「物流企業にはオススメ。ぜひ協力してもらいたい」と同社長。「物流企業は依頼通りに届けるのが当たり前で、普段あまり『ありがとう』『助かります』という声をいただく機会が少なく、ドライバーにとっても仕事に対するプライドや誇り、やりがいを感じる機会が少ない」と話す。既存のネットワークを活かして、こういった社会的な価値がある活動を行うことで、「会社への誇りや仕事への使命感が高まり、より一層業務へのやりがい、従業員の満足度が高まる」と断言する。
北九州市職員として、子ども食堂への食料支援の仕組みづくりに携わった長迫和宏氏は「今年度、市費や助成金、寄付金などにより約6000万円の子ども食堂関連予算を組んでいる。同市内44カ所の子ども食堂に食品を届けるため、市と民間企業による4カ所のロジ拠点を設けたほか、ストックスペースのある子ども食堂による5カ所のハブ拠点を整備している。このほか、子ども食堂への支援を考えている企業などと『協定』を結び、継続的に支援をしてもらえる環境を整えている。この中には保管場所の無償貸与などの項目もある。協力する企業などには、広報を通じて、広く市民に知ってもらうようにしている。市長からの感謝状を贈呈する場合もある。協力をいただく企業には、喜んでもらえる」と話している。