北海道開発局は6月6日、「令和3年度日高地域物流実態調査」の報告書を公表した。
道内の地方部である「生産空間」の維持・発展に向け、日高地域(浦河町、様似町、えりも町、新ひだか町)の輸送力維持に向けたアイディアについて、物流事業者を始め、地元の自治体や経済団体などへのヒアリングを通じて検討したもの。前年度から引き続きの調査となっている。
北海道では突端部への物流の維持が課題となっている。
地理的に端に行けば行くほど人口と物流量が減り、出入りする物流量のバランスも悪く、片荷構造になりがちとなる。アクセスも悪く、物流コストが他地域と比較して高くなるほか、ドライバーの2024年問題が絡み、今後、物流サービスが維持されるか懸念されている。
北海道の中央南西部の日高地方は、日高山脈と海岸線に狭まれ、8割近くが山林の細長い地形。約4800㎡、人口は約6万3000人で、福岡県や和歌山県にとほぼ同等の広さだが、福岡県の1%あまり、和歌山県の7%弱の人口しかおらず、過疎が進んでいる。
同地域は、物流事業者にとっては「帰り荷が確保出来ない片荷輸送」を強いられることが多いほか、「採算が取れる荷物量の確保が困難」「長距離輸送のためドライバーの労働時間遵守が困難」「幹線道路が極めて限定され通行止めも多い」といった困難さがあり、2024年問題を直近に控えていることもあり、このままでは「運賃の上昇と輸送力の低下」が輸送量の減少に拍車を掛け、「地域産業の疲弊」を生み、「地域の衰退」に繋がっていく恐れがあると同報告書では示している。
物流事業者へのヒアリングにより、日高地域へ入る荷動きは、「独自の輸送網を有するスーパー・コンビニの店舗間商品輸送」「特別積み合わせ運送」「特定商品の輸送(飲料、日用品、建設用資材等)」の3つのパターンがあるものの、いずれも復路の荷物が不足していることが分かっており、同エリアを管轄する室蘭地区ト協会も「片荷状態は昔からの課題。単独で日高地域へ行こうとする業者は少ない。今後、同方面に行けない物流事業者が出てくることも考えられる」との認識を示す。
また、物流事業者から「荷主が物流に係る費用について重要と考えていない。人口減少の現状で、地域の生産量が増えなければ、物流の発展性は少ない」「このまま何もせずに『地域へモノが運べなくなる』『地域の物流が壊滅する』というストーリーを考えると、共同輸送や中継輸送を行い、物流を守っていくことが最優先。運賃の値上げはせざるを得ない」といった声が挙がった。
地元経済団体からは「地域から送るモノはないが、入ってくるモノだけある。地元商店が仕入れを依頼しても、メーカーの営業がなかなか来ない」(浦河商工会議所)、「仕入れ先のセールスの来訪がなくなり、仕入れが難しくなっている。小ロットの仕入れが出来ない。送料の負担が大きい」(様似町商工会)としており、荷主からも「コールドチェーンを保った輸送に対応出来る業者が極めて限定され、割高でも利用せざるを得ない」(水産加工業)、「荷物の到着日時が不確実」(同)、「メーカー、問屋が定期便を減便し、商品の仕入れが不便」(薬局)、「運賃上昇により仕入れ価格が高騰し、問屋や卸から仕入れるより、大手量販店で買付ける方が安いことがある」(食品販売業)といった課題が聞かれた。
同報告書では、突端部への荷物量の減少により、物流の採算確保が困難となり、路線の縮小・撤退に至っている現状が示されており、今後の見通しについて「ドライバーや輸送車両が大きく増えていく要素は見当たらず、特に地域突端部への輸送力は小さくなっていく」と推察しているものの、「日高地域全体を見ると、宅配サービスの充実、通信販売や店舗における生活物資の購入に住民から大きな不満は聞かれないことから、現時点で物流に関しての危機感は薄い」との認識を示した。
輸送力を維持していくためのアイディアとして、「共同輸送」「中継輸送」「温度帯の違う荷物の混載輸送」「荷物と空き車両の情報マッチング」「荷物を集約する拠点の整備」などが示され、これらについて関係者の意見を聴取した結果、「日高地域において取り組みを進められる可能性はある」とするが、「実現には物流事業者単独では困難」であり、「今後の地域物流に危機感を持ち、地域の実情をよく知り、動ける『キーマン』が重要であり、地域からアクションを起こしていくことが大事である」とした。
「住民や産業・企業を含めた地域全体と日高地域に関わる物流事業者が認識を共有し、今後の大きな課題として、日高地域の輸送力維持のためのアイディア実現に向けた取り組みを待ったなしで進めていくことが重要」と結論づけている。