北海道では昨年度から、「ロジスク」という独自のイベントが開かれている。行政が民間企業の物流マッチングの後押しをするもので、スタートから1年あまりが経過した。どのような成果と課題があるのか。
ロジスクは、2023年10月に北海道開発局の提案によりスタートした。トラックドライバーの時間外労働の上限規制により、特に道内地方部への運行などでは「運べない」ケースが懸念され、共同輸送や中継輸送を進めることで、道内の物流の維持をはかる必要性が高まっていた。しかし、「運送会社単独では、マッチング先を開拓することが難しい」という声が強かったため、行政が物流マッチングの場を設けた。
同局が主催する「共同輸送・中継輸送実装研究会」が、少人数で「共同輸送・中継輸送したい品目・ルート」など話し合えるオープンな場を設置。これを「ロジスク」と名付け、運送事業者と荷主企業に広く参加を呼びかけた。行政がテーブルを設けたことで、「力関係やライバル関係を気にせず、参加しやすい」性格を持たせた。
2023年度は同研究会が10月に旭川市で「道北ロジスク」、12月に札幌市で「道央ロジスク」を開催。2024年度は北海道開発局・北海道運輸局・北海道経済産業局・北海道が連携し、7月に釧路市で「道東ロジスク」、函館市で「道南ロジスク」、9月に名寄市で「道北ロジスク(2回目)」、10月に札幌市で「道央ロジスク(同)」を開催。約1年間で6回のロジスクを開いた。
参加企業は事前に「エリアや品目、温度帯、時間、保有車両」「どのようなマッチングを望んでいるか」などを記載したエントリーシートを提出し、それを共有する。事務局がマッチングの可能性が高そうな組み合わせを作り、30分程度話し合ってもらう。これを何度か繰り返し、「マッチングの種」を探す。このほか、フリートークの機会も設ける。
この先は具体化に向けて直接協議してもらうが、事務局は進捗状況を報告してもらい、場合によっては仲介役として協議に参加する。民間企業が通常、自力で行わなければならない営業活動や商談の「とっかかり」を行政がお膳立てしてくれ、その後のフォローまでしてくれる。
ロジスクへの参加企業は、スタート時は15社(道北)。その後、16社(道央)、27社(道東)、31社(道南)、30社(道北)、48社(道央)と増加傾向で推移。道北ロジスクは1年で2倍、道央ロジスクは3倍にまで参加企業が増え、事務局(北海道開発局開発監理部開発調整課)は、「参加企業からの評価も上々。周りに声かけをしてくれるケースも増え、徐々にロジスクが広がっている」と良い感触を掴んでいる。実際に、今年度ロジスクに参加した企業へのアンケートでは、8〜9割の企業が「商談の端緒を得た」と回答している。
ただ、課題も浮き彫りになっている。
1つは、参加企業が「まだ十分ではない」という点。
当初と比べて順調に増加しているものの、道内の運送事業者や荷主の数から比べて、直近の「48社」という数字でも、決して多くはない。開催にあたって、行政によるプレスリリースを行うほか、ト協を通じて、会員事業者への周知も行なっており、少なくとも毎回、数百〜1000あまりの事業者に直接アナウンスを行なっているが、参加への機運は高まってはいない。とりわけ、「自力でマッチングが難しい」立場にある地場の中小運送企業に限っていえば、参加企業の半分にも満たないのが現状だ。
今後、どのように参加企業を募っていくかが課題となっているが、事務局では「対面ではなく、デジタルでのマッチングなど、さまざまな可能性を考えていく」としている。
「ロジスク発のマッチング事例」がまだないという点も課題といえる。水面下で交渉中の案件はあるようだが、成約にまで至った事例はまだ出ていない。事務局が唯一、公表しているのは「幸楽輸送と新聞輸送事業者の共同輸送の試験運用」の案件。野菜の集荷エリアを拡大したい幸楽輸送と、新聞を運んだ後の帰り荷がない新聞輸送事業者が連携し、新聞輸送事業者が幸楽輸送の代わりに帰り荷として野菜を運んでくるというもので、7月末から試験的に行なっている。
これも恒常的な共同輸送になるかは検証中であり、ロジスクによって、新たな共同輸送や中継輸送の事例が多く出てくることが待たれる。
また、「行政がいつまで関わるか」という点も大きな論点だ。民間企業間のマッチングは本来、企業や業界が当事者として進めるのが自然。事務局でも「民間・業界ベースでマッチングするのが基本と考えており、行政はあくまで後押しするというスタンス。いつまでも行政として積極的に関わっていくとは考えていない」としている。
ロジスクに参加している運送企業や荷主企業からは、さまざまな反応を聞くことができる。
「折角のいい機会なのに、なぜこれほど参加企業が少ないのか」(旭川市の運送会社)、「継続的に交渉・商談を続けている。非常にありがたい」(札幌市の運送会社)、「情報交換の場として考えており、その中で協力会社を拡げていきたいと思っている。繋がりのなかった輸送会社と知り合える事にメリットを感じている」(同市の運送会社)といった前向きな評価が多い。
一方で、「マッチングするには母数が多くなければ効果的ではない。100社いて1〜2件マッチングするという感じではないか。現状では若干、参加企業が足りていない印象だ」(札幌市の荷主企業)、「本気でビジネスマッチングを求めている企業や輸送会社なら物足りないと感じているのではないか。新たな企業の参加や、過去の組み合わせと重複しないような工夫を考えて欲しい」(同市の運送会社)、「いつも同じメンバーで、だいたい話し尽くした。継続してほしいが、地場の運送事業者がまだ参加に積極的ではないので、協力してくれている行政もそのうち撤退するのでは」(同市の運送会社)といった声も聞かれる。