地域物流・ロジスティクスシステムなどを研究する北海商科大学の相浦宣徳教授は7月13日、同大学で開催された一般市民などに向けた公開講座で「北海道の経済と生活を支える物流ー北海道物流の課題と影響」と題して講演し、「社会における物流の役割」「北海道の物流を考える上でのポイント」「青函共用走行問題を中心とした北海道物流における課題」などについてクイズを交えながら説明した。
同大学の2019年度前期公開講座(道民カレッジ連携講座教養コース)「東アジア社会の共生と発展」の一環として開催されたもので、70人あまりが聴講した。
同教授は冒頭、今年度、複数の飲料・食品メーカーが物流コスト増大などを理由として製品の希望小売価格を相次いで引き上げている現状を示し、「物流が生活に密接に関連している一つの証左といえる」と強調。
道外へのモノの運ばれ方として、鉄道コンテナ輸送、トラック・シャーシ輸送(フェリー・RORO船)、海上コンテナ輸送、航空貨物輸送、バルク船といったモードがあり、貨物輸送において重要視されるのは、「輸送コスト」「リードタイム」「輸送時間設定の合致」「輸送の定時制・確実性の高さ」「輸送品質の管理」「輸送単位の合致」などであると説明。
現在のそれぞれの輸送モードのシェアを示し、「これらのシェアは単なる輸送量の実績ではなく、北海道の厳しい物流環境の制約の下、需要に対して、先人たちが創意工夫を積み重ねて応じたきた証であり、長年の歴史的必然性といえる」と強調、「これが今、崩壊しつつある」と指摘した。
数年前までの北海道物流の大きな課題は、①地理的条件に起因するもの(本州への輸送手段が限定している、道内都市間距離・時間が長い、遠隔多方向性、積雪寒冷)、②産業構造に起因するもの(対道外では入超傾向・道内では札幌集中の片荷、季節波動)ーだったが、現在はそれに加え、③JR北海道の営業区間の見直し、④青函共用走行問題、⑤SOx排出規制の強化、⑥対道外トラック輸送能力の低下、⑦道内相互トラック輸送能力の低下、⑧TPPによる運賃負担力の低下、⑨災害時などイレギュラー輸送の仕組みーなどが挙げられるとし、対応すべき課題が増えていると指摘。
この中で、青函トンネルを含む約82kmの共用走行区間における新幹線と貨物列車の共用走行を意味する「青函共用走行問題」について取り上げ、貨物列車と新幹線が高速走行する時間帯を分ける「時間帯区分案」を採用した場合、「貨物列車が減便されれば北海道の輸送力が落ち、また、ダイヤをずらして貨物列車の本数を確保したとしても、輸送需要と大きくかけ離れたダイヤになる可能性があり、実質的に輸送力が落ちることにつながる」と指摘。
「現行のダイヤは、これまで30年間、運ぶモノのタイミングを考えながら、輸送需要に対応することで出来てきたもの。JRの輸送力が減った分をフェリーなどに代替して対応するという議論もあるが、『港湾まで・港湾から』のトラック輸送が膨大になり、ドライバー不足の中、実質的に対応は非常に困難。輸送ロットやリードタイムも需要にあわないケースも多く、現実的とはいえない」と説明。
「青函共用を例にしたが、多くの課題により、北海道の物流が細っていく現実がすぐそこまで来ている。物流の問題が市民生活に密接に関連しており、今後、物流コスト上昇等の負担が北海道全体に大きな影響を与える可能性が大きい」と訴えた。