改正貨物自動車運送事業法により設けられた「標準的な運賃の告示制度」に基づいて昨年4月に「標準的な運賃」が告示されてからおよそ10カ月か経過した。道内の運送事業者は「標準的な運賃」をどのように捉え、どのように活用しているのか。
多くの事業者に話を聞いたが、「標準的な運賃をベースに運賃交渉を行って、『収受』できた」というケースは1件もない。実勢運賃との開きがあまりに大きいため、十分に活用できていないという声が圧倒的に多い。「荷主と話をしていない」「コロナ禍で仕事が減り、運賃交渉どころではない」という事業者も多い。
道北の事業者は「実勢運賃よりも、荷主によっては2倍近く、全荷主を均すと20〜30%程度高い水準。収受できるイメージがない。まだ、支局に届出も、荷主に具体的な話もしておらず、これからの話」と率直に話す。ただ、「意味がないと非難したいのではなく、こういった数字を国が示しているということを、皆で言い続けていくことで、少しづつ変わっていくのではないか」と将来的な期待は寄せている様子だ。
同様に標準的な運賃の数字について、多くの事業者から「今の運賃より15%〜30%程度離れている」という声を聞く。道央の事業者は「この数字で不退転の決意で交渉する事業者は相当少ないと思うが、荷主と話をする中で、標準的な運賃のペーパーを見せている動きは出てきている。当社でも主要な荷主に見せたが『高すぎる』と笑われ、何も変わっていない。今はまだこのような段階ではないか」と話す。
標準的な運賃が告示される前年に、多くの荷主と抜本的な運賃改善の交渉を自力で済ませた道央の事業者は「ドライバーの待遇改善のために不退転の決意で交渉し、概ね運賃アップを認めてもらった。全体的に20%程度アップとなったが、その後に示された標準的な運賃と比べたら、ほぼ同じ水準だった」とし、「示された数字はいい線だと思う。実際に当社でも収受できている水準で、運送事業の持続と、荷主が払える両方のバランスがとれている」との感想をもらす。
このほか、事業者からは様々な捉え方を聞く。「『標準』という言葉が『収受して当然』というイメージを想起させる。国交省も言っている通り、これは『参考』の数字。『参考運賃』『目標運賃』と表現した方が正確だった」(道央の事業者)、「しっかりした荷主は物流コストを把握しているので収受できるはずがない。しかし、物流担当が交代し、物流の素人が交渉についた場合、標準運賃のハッタリが効くかもしれない。こういったレアケースもありうるので、邪魔になるものではない」(札幌市白石区の事業者)、「適正な運賃は、それぞれが原価計算し、それを元にはじき出すもの。各社で原価も求める利益も異なる中で、サービスの価格を決定することは、経営者の中心的な仕事。一律の数字として国に示してもらうのは、本来は恥ずかしいこと。原価計算を元にした運賃交渉をしてこなかった業界の弱さを示している」(札幌市白石区の事業者)といった声もある。
また、「傭車に仕事を出す際にも『標準的な運賃を支払いましょう』ということも本来は言っていくべきだが、このような話はほとんど出ていない。運送業界では同業者からの仕事が多いので、荷主からの収受と併せて、こういった話ももっとしていくべきだ」(道央の事業者)といった声もあるが、「もし、協力会社から『標準的な運賃を支払って下さい』と交渉があった場合、どうしますか」と聞き、「支払う」という回答はこの10ケ月間で一回も事業者から聞いてはいない。