日本気象協会北海道支社(川上俊一支社長、札幌市中央区)は11月2日、ホテルポールスター札幌で「札幌都市圏での大雪災害による道路交通への影響と将来に向けて」と題したシンポジウムを開催した。
昨冬に札幌都市圏で発生した大雪と交通災害を振り返り、「多雪時の物流や交通の確保」などの方策について学識者、物流事業者によるパネルディスカッションを行った。
北海道大学大学院工学研究院の萩原亨教授、岸邦宏教授、高橋翔准教授をはじめ、北海道開発技術センター調査研究部の大川戸貴浩調査第二部長、日本気象協会北海道支社の丹治和博統括主幹らが登壇。物流業界からは北海道物流開発(札幌市西区)の斉藤博之会長が参加した。
昨冬の札幌都市圏は3度の大雪(1月12~14日、2月6日、同21〜23日)によって「交通機関の運休」「除排雪の大幅な遅れ」「各所での渋滞」「スタック車両の多発」「物流やごみ収集などの遅延」―といった事態が発生し、市民生活に大きな影響が出た。
当時の状況について、北海道物流開発の斉藤会長は「従業員は、まず自宅の除雪をしてから通勤し、会社では構内の除雪とトラック数十台の雪下ろしをした後に積込作業を行なった。交通の麻痺により、2時間かけて徒歩で通勤した従業員もいた。配送車両は排雪ダンプと運行経路が重なり、大渋滞に巻き込まれた。路面が悪く、荷室が揺れて商品破損が発生するなど、通常通りに業務が進まず苦しい思いをした」と振り返り、「指定時間厳守に向け、雪との闘いとなった」と説明。
続けて、「サプライチェーンが混乱した場合に備え、各家庭では3日分の備蓄をお願いしたい。発荷主・着荷主を含めたサプライチェーン全体としては、『物流の共有部分の検討』『気象予測データを交えた需要予測の運用能力の向上』『大雪時の行動計画と優先順位の策定』などを進めていくことが重要」と訴えた。
また、輝運輸札幌営業所(同白石区)の下田敬夫所長は「夏場なら20分程度で済む納品が1時間以上、45分程度の納品が2時間半以上かかった。納品時間を守って輸送する使命があり、冬でも円滑な輸送ができるよう対策をお願いしたい」と声を挙げた。
高橋准教授は「大雪時は道路状況を常に確認し、物流を止めないようにしつつ、都心部に流入する車両をコントロールする仕組みの検討が必要」と語った。
丹治主幹は「大雪による交通災害の度合いは、降雪量に加え、雪質や吹雪の強さなどにより総合的に判断する必要がある」として、「雪害レベル」という新しい指標を提案し、「雪害の発生危険度を直接的に表すこの指標が、実用的なものとなるよう開発を進めている」と報告した。
また、「昨冬のような大雪は再び繰り返される。この際に、同様の事態が起きないよう、様々な組織や個人が大雪に関わる気象情報のリテラシーを高め、予め行動計画を備えておく必要がある」と訴えた。
このほか、岸教授は「全域で交通が麻痺したが、現在の状況や今後の見通しなど正確な情報が分かりにくく、昔から言われていた交通情報の一元化の必要性を再認識した。交通の回復に向けた正確な工程管理体制を準備するとともに、市民は何日まで交通マヒを受け入れられるかを考えておきたい」と指摘、大川戸部長は「移動しない選択も視野に入れ、都心部への流入抑制政策の必要性を考えたい。大雪時には、情報を集約・発信するポータルサイトや様々な交通機関が連携するシステムの構築も重要」との認識を示した。
萩原教授は「大雪のピークにあわせて除排雪の設備を抱えるのはコストがかかり不可能。社会全体として、具体的な解決策を検討していかなければならない」とまとめた。
同支社では2016年から「気象と物流」をテーマとしたシンポジウムを開催しており、2020年からは新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して「誌上シンポジウム」へと変更してきたが、今回3年ぶりに公開シンポジウムの形式の開催となった。
北海道道路管理技術センター、北海道開発技術センターとの共催、北海道開発局、北海道運輸局、札幌管区気象台、北海道、札幌市、NEXCO東日本北海道支社、寒地土木研究所、北海道開発協会、北ト協、土木学会北海道支部、日本気象学会北海道支部、日本雪氷学会北海道支部、北海道経済連合会、北海道商工会議所連合会、日本物流学会北海道支部、日本技術士会北海道本部、NPO法人雪氷ネットワークが後援した。