日本物流学会「地域の生活と産業を支えるサステナブル物流研究会」発足

日本物流学会(矢野裕児会長)では今年度、新たな研究部門として「地域の生活と産業を支えるサステナブル物流研究会(サステナブル物流研究会)」が発足した。当面の活動方針として、「定期的な情報交換」「地域をこえた研究者間の交流」「研究対象をこえた研究者間の交流」の3点を設定している。

同学会では「物流若拓研究会」「ビジネスセッション研究部会」「関西共同物流研究会」の3つの研究部門が存在していたが、4つ目の部門としてサステナブル物流研究会がスタートした。九州国際大学の男澤智治教授、北海商科大学の相浦宣徳教授が事務局を務める。

北海道や九州など日本の「末端地域」を中心として、「物流の機能低下」「物流の維持が困難」と言った課題が顕在化しつつあり、これが地域全体の「生活や産業のほそり」を招来する懸念があるとの問題意識から、こういった地域内の物流ネットワークや他の地域とを結ぶ基幹物流について、現状や取り組み事例などを把握すると共に、改善にむけた施策の提案を目指す。物流の「ビジネス・競争」や「経済合理性を強く重視する」といった側面だけではなく、「地域経済・市民生活との関わり」といった社会的な側面により焦点をあてる。

研究テーマとして、「生産地から消費地への輸送(長距離輸送・小ロット輸送・貨客混載等)」「過疎地域・離島や山間地などの輸送困難地域への生活必需品の供給(貨客混載、買い物支援、ドローン支援等)」「基幹物流ネットワークの形成(モーダルシフト、貨物鉄道・海上輸送の利用促進、自動運転等)」の3つを設定し、それぞれのテーマで継続的に研究会等を開いていく。

初めての研究会が6月15日に北海道で開催され、今後、7月に九州で2回目、来年3月に関西で3回目の研究会を開いていく予定。

相浦教授は「地域の物流のほそりをとめるため、研究者の連携を進めていこうと部会を立ち上げた」とし、矢野会長は「今までは北海道だけ、九州だけなどとそれぞれの地域で研究会を開いていたが、みんなで地域を支える物流について考えていきたいとして発足した」と述べた。

日本物流学会・地域の生活と産業を支えるサステナブル研究会は6月15日、初めての研究会を北海商科大学でオンラインと併用で開催、全国から約25人が参加した。
ホクレン農業協同組合連合管理本部物流部物流三課の岡田拓也課長が「北海道農業から見た物流の現代(いま)と将来(みらい)」と題して講演した。

岡田氏は令和4年度の同部の取扱い数量について640万㌧、農畜産物の道外移出数量は193万㌧であり、このうちフェリー・RO・RO船の輸送シェアは63%、貨物鉄道は34%と報告。「品質管理(温度、荷傷み)」「ロット・物量」「距離(発着地間の純粋な距離、発着地と最寄りの物流結節点間の距離)」「所要時間」「定時制・確実性」「コスト」を「販売上の要件」と「輸送手段の特性」から勘案し、「最適な輸送手段をその都度1件1件選択している」と説明。
あわせて、持続可能な物流を維持するため、「一貫パレチゼーションの推進」「中継地点の設置・活用」「帰り荷の確保」「車両の大型化」といった取り組みを進めていると説明した。

また、北海道における貨物鉄道輸送の「青函トンネルにおける新幹線と貨物列車の共用走行問題」「新幹線の札幌延伸時における並行在来線存続問題」「JR北海道が単独では維持困難な線区の問題」の3つ問題について解説し、「判断を誤ると、現在の物量が運べなくなり、効率的な輸送手段の選択も難しくなる。結果、販売価格の値上がりや事業者所得の減少につながり、北海道のみならず、食料安全保障の観点からも全国的に大変な影響が出る」と指摘した。

貨物鉄道輸送について、「函館~長万部」間の在来平行線が維持されたとして、「物流コストにどれだけの影響が出るのか。新幹線の高速化によって貨物の輸送量がどうなるのかがはっきりしていない」とし、一方、海上輸送では「労働力を確保していけるのか。燃料油価格がどのように推移するのか。脱炭素燃料への転換がどのような影響を及ぼすのかもわからない。将来的に海上輸送が贅沢な輸送手段となる可能性もある」と語った。

「物流は社会の裏方であり、一般からは見えにくいが、将来の課題が多く、深刻な現状であるということを、広くアナウンスしてほしい」と訴えた。

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