トラックドライバーの人材不足や労働時間抑制の流れを受けて、中継輸送やRORO船・フェリーによる無人航送など、トレーラのシャーシを活用した輸送事例が増えている。
しかし、シャーシには運行記録計等が付いておらず、位置情報や走行記録、整備記録などの管理を十分に行うのに難しい現状があり、とりわけ、デジタルでの管理は難しかった。
このため、自社のシャーシが他社のトラクタヘッドに牽引される際には「シャーシがどこにいるのか正確な把握が難しい」、自社のヘッドが他社のシャーシを牽引する際には「そのシャーシの走行距離がどのくらいで、どの程度整備されているのかわからない」といったことが通常の状況だった。
物流効率化を目指したシャーシ活用による輸送ニーズが今後も高まることが予想される中、富士通交通・道路データサービス(島田孝司社長、東京都港区)は、シャーシの「位置情報・走行情報・整備情報」などを一元的に管理し、共有できる「トレーラ管理サービス」の構築を進めている。
同社は1月21日~3月30日にかけて、富士通製のネットワーク型デジタルタコグラフとスマートフォン及びビーコンを用いて、トレーラのシャーシの所在をクラウド上で管理する仕組みを構築し、幸楽輸送(不動直樹社長、札幌市清田区)の協力を得て、「トレーラ管理サービス」の有効性の実証や、サービス化に向けた課題等を確認するための実験を行った。
実験では、幸楽輸送が保有する約70台のシャーシに太陽光により電池交換が不要なバッテリーフリーのビーコンを貼付し、ドライバーは専用のアプリを搭載したスマートフォンを携帯、北海道内の中継輸送において、位置情報や走行距離、整備状況などの情報を収集した。
幸楽輸送の不動社長は、「自社のヘッドで自社のシャーシを牽引する際は、ヘッドに運行記録計があるので正確な走行距離の把握やリアルタイムの動態管理等が可能だが、協力会社に牽引してもらうとこれが出来ない。同じく、自社のヘッドで他社のシャーシを牽引する場合でも、そのシャーシがどれほど整備・点検が行き届いているか、車検をいつとったのか、走行距離がどれくらいかといったことはわからず、走行距離に応じた適切なメンテナンス等も難しい状況だった。シャーシ輸送は、極論を言えば、伝票等の通りに積載されているかも確認できないため、ブラックボックスを引っ張っているような状態だった」と現状を説明。
「シャーシは鉄道コンテナと同様、広く普及している物流容器と考えれば、コンテナはRFID等でデジタル管理をされているケースも多いが、車輪が駆動する車両にもかかわらず、シャーシはそのような管理を行うインフラが存在していなかった。このような状況が全国的にあるため、シャーシを管理するシステムの必要性について共感し、今回の実験に協力した」と話す。
実験の結果について、「気候が過酷な厳冬期の北海道で、長距離運行や都市部で運行など様々な運行形態がある中での運用となったが、ビーコンやソフトウエアの問題もなく、動態管理や位置情報等を正確に把握でき、インフラとして成り立ちうる有効性が確認できた」と捉えており、「北海道特有の季節繁閑によるシャーシの偏在の解消にも活用出来るのではないか」と地域全体の物流効率化につながる可能性を示唆している。
「将来、実用化されたら、商品化と同時に最初に導入したい」と高い評価をしている。
同社事業開発部の梅津政男部長も同様に「シャーシの走行距離が正確にわかるので、それに応じた必要な整備を行うことが可能になり、管理する側にとっては安心できるようになった。シャーシを協力会社に運んでもらっている場合でも、リアルタイムで位置情報が確認できるため、『あとどれくらいの時間で到着するか』といった精度が大きく高まり、その後の作業の準備もロスなく行うことができるようになった。中継輸送では、到着した直後にシャーシを切り替えて、すぐに出発することもでき、運行の効率化にも資することがわかった」と評価している。
実験のオブザーバーを務めた北海商科大学の相浦宣徳教授は「現在でも大量のシャーシの管理を紙やホワイトボードなどアナログで行っているケースは少なくない。今回の実験では、シャーシの効率的な管理を広く実現するための基本デバイスが厳しい風雪に耐えることができ、将来的な物流管理インフラに繋がりうる基礎的な確認ができた。広く使われるインフラ系のシステムを目指す中で、大きな成果となった」と捉えている。
富士通交通・道路データサービスでは、「今回の実験では、冬季の北海道の厳しい現場で問題なく運用でき、動態管理や整備状況を共有することが業務上役立つといった評価を幸楽輸送よりいただいた。また、スマホアプリの操作性、管理側のオペレーション、輸送現場に馴染むかなど、様々な観点からの実験となったが、課題の洗い出しも十分にできた」としている。
今後について同社では、「夏頃をめどにRORO船・フェリーを経由した陸路・海路をまたがったシャーシ輸送での検証に向けて準備を進めている。今回は北海道内での1社のみの実験だったが、次は台数やエリアを大きく広げ、参画する事業者を増やし、複数の事業者間で動態管理や整備状況等の情報を共有する形で実験を考えている。実験で得られた課題を解消したのち、早い段階で正式なサービスとしてリリースしたい。その際は、スマホさえあれば活用できるオープンなプラットホームとして、シャーシを持っている事業者に広く使ってもらえる形を想定している」としている。