北海道運輸局は札ト協と協力して10月23日、札幌国際情報高校のグローバルビジネス科1年生120人を対象とした「物流体験会」の第2部を開催した。
第1部は同7日に学識経験者による物流の講義を行い、今回は、実際の現場において倉庫の保管状況や荷役のしくみ、原料から製造・出荷までの製品の流れを体験してもらうとともに、物流事業者からの講話により、物流現場の「生」の声を聞いてもらう内容。
講話は、工藤商事(夕張郡)の工藤英人社長が「北海道の強みとそれを支える物流」、幸楽輸送(札幌市清田区)の不動直樹社長が「物流の最適化」、ジャスト・カーゴ(石狩市)の清野敏彦社長が「情報制御の重要性」、北海道物流開発(札幌市西区)の斉藤博之会長が「将来の物流効率化の考え方」と題してそれぞれ1時間にわたって行った。
工藤社長は、同社で実際に手がけている農産物の集荷・選果・梱包・保管・出荷といった業務を動画で説明。「必要なモノを、必要な時に、必要な量で、必要な場所へ届ける一連の業務の管理がロジスティクス」と解説し、今後の北海道のロジスティクスに必要な要素として、荷物のサイズを標準化することと強調、「原料や製品の荷姿を標準化すれば、オーダーを受けた際、どのような容積、積載量の輸送モードを用意すればいいのか予め正確に分かり、積載率の向上が図れるほか、同じ荷姿のまま輸送をつなげれば作業負担が大幅に軽減される」と述べた。
また、北海道のロジスティクスに貢献できる新しいテクノロジーやアイデアについて生徒から発表してもらい、「モノをデータに変換して送る」「地下に輸送専用レーンを敷設する」といったユニークなアイデアが披露され、工藤社長は「既存のオートメーションの一歩先を考えて欲しい。北海道の将来は、皆さんの若い発想と、それに基づいた新しいテクノロジーにかかっている」と呼びかけた。
不動社長は、物流について「大昔から衣食住に関わるモノの輸送・保管を行い、常に社会から必要とされている仕事。世の中を支えるインフラで、経済活動によって生じた結果の集まりである」と述べ、北海道のトラックは「平均して実車率が約60%、積載率が約60%とかなり車両が空いており、困っている」と説明。
また、最適化について「制約条件がある中で、複数の選択肢を組み合わせ、最小・最大の成果を出すこと」と解説。「物流は最適化が最も進んでいない分野。荷主が『在庫を持たず、多頻度での商品供給』を望んでいても、物流側は『大きなトラック満載で1回の配送で済ます』ことがコストを抑えることにつながると考えており、それぞれの部分最適がトレードオフの関係になっている。このほか、物流センターがどこに何カ所置くのが最適なのかといったことも分からない」と問題提起し、「社会の中で最適化のニーズが一番高く、全体最適の効果が一番大きいのが物流・ロジスティクス・SCMの分野」と強調した。
清野社長は、「情報のコントロールができないと、物流がうまくまわらない。情報を制御するためにシステム化が進んでいる」と説明し、資材の発注から調達、製造資材を作り、ピッキングして出荷し、施工、廃棄物処理に至るまでの住宅に関する一連の「モノと情報の流れ」を工程ごとに解説。
「消費者と住宅販社との打ち合わせ情報に基づき、全国各地の資材メーカーの工場から、キッチン、ユニットバス、洗面化粧台、床材、壁紙、トイレ、建具、外壁、玄関ドア、窓ガラス等の多くの資材が住宅メーカーの製造工場に集められ、住宅が造られる。資材は一度、物流拠点に集められた後、全国の工場に運ばれる。北海道の工場には、鉄道とフェリーによって運ばれるが、輸送の際、それぞれの資材のサイズを上手く組み合わせ、効率的にコンテナやパレットに積み付けている。工場では施主別にピッキングを行い、現場まで運ぶ。製造側は、発注情報が早くわかれば生産工数を工夫するなどコントロールが可能となり、作業を平準化できるが、物流は運び溜めができない点が難しい」と述べた。
また、物流に携わるやりがいについて、「人が生活するうえで欠かせないあらゆるものを届けているのが物流企業。過去の大災害時に物流がストップした際には、あちこちでモノが買えないなどの混乱が起こったように、物流企業の仕事は社会に与える影響がとても大きい。社会を支えていける実感を味わえることが誇りとなり、顧客の要望通りにモノを運び、感謝してもらえることが何よりの喜び。物流がないと生活が成り立たない」と述べた。
このほか、同社の近郊で進む「自走ロボットによる商品配送の実験」や、同社が過去に携わった「南極昭和基地に向けた物流」を紹介、「現在、大手自動車メーカー、住宅メーカーが月で車を走らせたり、家を建てようと計画している。月に荷物を運ぶ事も将来手がけたい」とし、生徒に向かって「チャレンジをすれば、多くのことができる。可能性はたくさんあるので、色々なことにチャレンジしてもらいたい」と呼びかけた。
斉藤会長は、今までの物流業は取引先から「情報をもらう」側にいたが、これから物流の効率化を進めるためには、物流業が「情報を出す」側に変化することが重要と強調。また、これからの物流に関するキーワードとして、「モジュール化」による集荷・共同配送と、「フィジカルインターネット」の構築を挙げ、モジュール化については、「扱う荷物を、軽量コンテナ、コールドロールボックス、ラックなどのモジュール・ボックス・ユニット(MBU)に載せることで、荷役の機械化・自動化が可能となり、半ば自動化した荷役システムの構築につながる」と説明。また、フィジカルインターネットについて、「モノをテトリスのように効率よく組み合わせて、効率良く物流を動かすこと」として、同社が取り組んだ実際の混載輸送の実験を紹介した。
「物流が主導し、情報発信をすることが今後重要になる。店舗の棚の状況を画像認識技術を駆使してデータセンターで受けることで、次の日に出荷する荷物、車両、人員などを自動で調整する事も可能となる。この際、サプライチェーンの各所からトラックの位置や空車の情報、工場での生産量、気象情報、道路情報といった各種情報をLRC(ロジスティクスリザーベーションセンター)で収集し、分析・処理することで、効率的で安価な輸送計画の策定や変更ができ、本質的なサプライチェーンマネジメントができる」と述べ、「北海道サプライチェーン関係事業者の持続可能性につなげたい。変化に強い人が出ることが、北海道の明るい将来につながる。競争から共創へ、オープンにイノベーションを起こせる人材になってほしいと訴えた。
生徒はこのほか、石狩湾新港エリアにあるエースの石狩第7物流センターで無人フォークリフトや台車型無人追従ロボットが稼働する様子を見学したほか、東洋水産の石狩新港物流センターで道内最大級の冷蔵冷凍倉庫を見学、YKK APの北海道工場でビル・住宅用窓、網戸などの建築用プロダクツにおける原料の搬入から商品製造、出荷までのサプライチェーンを体感した。
この取り組みは、物流産業を学び、興味・関心を喚起し、将来の就職先の一つの選択肢として検討してもらうことを目的としたもの。参加した生徒からは「運送事業者の講話で、これまで知らなかった言葉や考えを知ることができた」「物流センターでは、自動化が進んでいると知る事ができた。自動追従の台車など面白いシステムがあり驚いた」「物流業界に関心が持てるようになった」との声を聞くことができた。