上士幌町(竹中貢町長)とJA上士幌町(小椋茂敏代表理事組合長)、NEXT DELIVERY(田路圭輔社長、北都留郡)は8月10日、JA全農ET研究所の協力のもと、7月1日に上士幌町でドローンを活用した牛の受精卵配送の実証実験を実施したと発表。牛の受精卵のドローン配送は世界初の取り組み。
ET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)をドローンによって上士幌町内の農家宅へ配送し、移植をする実証を行い、成功した。国の「デジタル田園都市国家構想推進交付金」を活用して行なった。
日本の肉牛生産において、和牛の子牛共有の手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(Embryo Transfer)による子牛生産の重要性が増している。ET研究所は、早くからこの受精卵供給体制を構築し、JAと一体となり和牛生産基盤を支え、ET妊娠牛を全国に供給している。
一般的な受精卵移植は凍結・保存した受精卵を使用するが、凍結や解凍の過程で受精卵が損傷を受ければ、受胎率は低下すると考えられる。一方、新鮮卵は、冷凍受精卵よりも安定した受胎率は得られるが、採卵当日に移植を行う必要があり、採卵・流通・利用の関係上、広域流通は困難となっている。
同実証は、新鮮卵の受胎率や広域流通の可能性を検証するもので、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所まで受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較して、ドローン配送の有効性の検証を行った。今回の実証を含め今年度中に計4回の実証を予定している。
ポットに入れられた受精卵が、ET研究所から熊谷牧場まで片道約7・1㎞の距離を約13分でエアロネクストが開発した物流専用ドローン「AirTruck」で配送され、移植師に手渡された。受け取った移植師は、直ちに発情同期化させた乳牛に移植処置を行い、約10分後に移植を完了した。
実証の結果、今回のドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルであり、実用に耐えうることが確認できた。
上士幌町では昨年11月にドローンを活用した牛の検体(乳汁)のドローンと陸送によるリレー配送の実証を日本で初めて実施し成功させ、乳汁に限らず、デジタルを活用した新たな配送の可能性も見据えたドローン配送を含む新スマート物流の社会実装に向けて推進している。
この度、配送等の課題の多い畜産業界で、特に細心の管理体制での実施が必須である受精卵の配送において、新スマート物流の実装可能性を検証することができたのは大変大きな成果となったとしている。
JA上士幌町の小椋茂敏組合長は「輸送時間が短く、振動が少ないほど、受胎率は向上する。運んだ受精卵が今後、どのような和牛や肉質になるのか追跡し、進めていければと思う」とコメントした。
熊谷牧場を経営する熊谷肇代表は「今は士幌町にある施設まで片道15分以上かけて受精卵を取りに行っている。ドローン配送は、迅速かつ安全に輸送でき、牛の供給不足解消や仕事の効率化にもつながると思う。家畜防疫上も良い」とコメントした。