トラックドライバーの時間外労働の上限規制がスタートする「2024年度」まであと1年を切り、荷主企業も効率的かつ持続的な物流体制を構築する必要に迫られている。一つの解決策は、IoTやAIなどを活用し、効率的な運行やドライバーの作業負担の軽減を進めることだ。北海道における有効な事例を紹介する。
幅広い種類のエネルギーを全道に向けて供給販売する北海道エナジティック(鉢呂喜一社長、札幌市東区)は2020年より、ゼロスペック(多田満朗社長、同中央区)が開発・販売するIoTセンシングデバイス「スマートオイルセンサー」と灯油自動発注管理SaaS「GoNoW」を正式に導入し、札幌市内での灯油配送の効率化を進めている。IoTで灯油タンクの残量を可視化し、このデータを元にAIで無駄のない配送の計画とルートを作成し、配送業務に係るコストと負担を大きく減らしている。
北海道をはじめ寒冷地での暖房や給湯に活用される灯油は、供給会社がローリー車で各家庭に設置されている屋外用ホームタンクなどに給油するのが一般的だが、定期配送の場合、タンク内の灯油の残量が「行ってみなければわからない」ため、「給油の必要がないのに配送に向かう」といった非効率が構造的に発生していた。
また、大量に灯油を消費するロードヒーティングを導入している顧客や、集合住宅などの場合、気温や天候などその日によって極端に消費量が増減することもあり、「毎日確認に行く」といったケースもあった。これが冬季の場合、道路環境が悪く、かつ、寒冷状況下での給油作業となるため、ドライバーへの負担が大きかった。
北海道エナジティックの細田朋裕事業本部リーダーは「灯油配送はベテランが多く、若い世代がやりたがらない業務で、世代交代が進んでいなかった。配送員の勘や経験に頼ったこれまでのやり方を抜本的に変える発想の転換が必要だった。そうした中でゼロスペックのシステムに出会い、実証実験を行った」と話す。
同社では2018年より同システムの実証実験に協力、2020年にこれらシステムが商用化されたのちも継続して活用しており、現在は札幌市内の約600台のタンクにスマートオイルセンサーを設置し、運用している。札幌市内では約15台の車両が運行しており、配送頻度の大幅な減少、それに伴うコストの削減につなげている。
「スマートオイルセンサー」は灯油タンクの蓋と一体化した製品。工事不要の「ただ取り付ければいいだけ」というシンプルな仕組みで、これで液面までの距離を測定し、タンク内の灯油残量を可視化する。
「GoNoW」は、ユーザーの住所、給油履歴、在庫量とその推移が確認できるほか、消費ペースを予測し、配送タイミングを提案する。配送計画が自動で生成され、給油地をマップ上に表示し、最適なルートを提案する。「ここにそろそろ配送に行く」といった属人的な判断から脱し、AIにより最適な計画・ルートの作成を支援する。
細田リーダーは、「毎日精度の高いデータが取れ、タンク内の灯油の在庫量のみならず、その先の消費量の予測もできる。ベテランではなくても、どのくらいの頻度で配送をすればいいか一目でわかり、当社もお客様も安心できる。導入にあたって、初期費用は無料、センサー1台年間で数千円のレベルで、配送効率や人件費を考えれば、十分にペイできている。配送頻度も大きく減り、配送員の負担と配送業務に係る労働時間が減り、労働環境の改善、人材定着にも寄与している」と評価し、「現状は札幌市内の配送に活用しているが、より効果がでるのは遠隔地。在庫がわからないので、ポツンと離れたタンクまで頻繁に確認に行くこともある。今後、全道に横展開をしていきたい」と話す。
ゼロスペックの神大地ビジネスチームマネージャーは、「現在、全国で約3万のセンサーを設置しており、導入企業からは『毎日確認に行くことがなくなった』といった感想が多く届いている。顧客企業は灯油配送の事業者が多く、『灯油の在庫を計る』システムと認識されることが多いが、当社ではより広い視点で『最適な配送のタイミングを計る』システムと捉えている」と説明。
「センサーを使わず、GoNoWにデータを入力することで、一般の物流業務にも活用できる。『必ずしも必要でない配送には行かない』という価値観が普及すれば、2024年問題に対応ができる余地が増える。実際にギリギリまで配送を減らし、一回で最大量の給油を行うよう心掛けている顧客もいる。非効率な配送業務が減ると、ドライバー個人の負担のみならず、企業として『時間の創出』『リソースの有効活用』にもつながる。2024年問題が迫る中、『決まった日にちに配送する』『ベテランの経験で配送を決める』のではなく、データに基づいて配送の判断を行い、配送回数の母数減少・配送回数の最適化が重要になるという価値観を広げていきたい」と話している。