北海道の物流現場への潜入、その雑感⑶

[働きやすさにも大きな違いがある]

初めてその現場で仕事をする際、いきなり現場に放り出され、一回説明を受けた後に「あとはやりながら覚えて。分からなかったら周りに聞いて」というケースがあった一方、現場に出る前に事務所などで30分程度、文書や口頭、場合によっては動画で「ここではどのような仕事をするのか、危険がないようどのようにカート等の機器を扱えばいいのか、同じ職場の従業員にどのように接すればいいのか、分からない場合は具体的に誰に聞けばいいのか」といったことを丁寧に説明するケースもあった。また、現場に出てからも「新人ドライバーの添乗指導」のように、自分がミスをした事例を織り交ぜて、特に気をつけるべきことを丁寧に説明しながら、30分程度つきっきりで指導をするケースもあり、こういった現場は総じて働きやすかった。

同じ出荷に向けた業務をする場合でも、前者のような現場は「限られた時間内にギリギリの人員で出荷しなければならないため、心理的にも余裕がない」と感じる場合が多く、作業が慣れていない人に対する指導や教育が十分ではなく、かつ、作業手順も「人によって異なる」ことをよく目にしたイメージだ。後者の場合は、オペレーションが割と標準化しており、それなりに人員が充足し、ギリギリで回している感じを受けなかったイメージがある。

また、多くの人がいる現場では、ビブスやエプロンなどを貸与して、「この人は正社員、この人はベテランパート、この人は新人アルバイト」など、一目で各人の習熟度がわかる工夫をしているところもあり、このような現場も総じて働きやすいことが多かった。

立場や役職、性別に関係なく、わからないことを聞くと「不機嫌になる、高圧的になる」人がいる現場と、「丁寧に説明をしてくれる」人がいる現場があった。前者のような人が多い現場では、「長くは働きたくない」と感じるのは当然のことであり、それが一部の人であったとしても、その職場全体の印象が悪くなってしまい、ひいては定着率に影響が出るのではないかと推察できた。これは「現場」というよりも、「その人の機嫌や性格」による部分が大きいのかもしれないが、一定程度、管理をする側で「働きやすい職場にする」という方向性は示せるはずだと感じた。

ある現場では初回勤務時に、管理者が「うちでは現場の従業員同士の和を大切にしている」と説明し、そういった規範を文字におこしたペーパーを示して読み上げ、「もし現場でおかしな態度や、行きすぎた指導をしている人がいた場合、教えて欲しい」と述べた。これは管理側が望む風土に現場がなっているかをチェックする仕組みであり、それが機能しているのかはわからないものの、確かにその現場では「高圧的な人」や「大声で他人に当たっている人」はおろか、「イライラしている人」を見ることもほぼなかった。現場で他人に対して「強く当たる」人がいるということは、管理者がそういった「風土」を特に問題視していないということであり、それを望まないのなら、それなりに「チェックする方法はある」のだと感じた。

[時給1000円前後の非正規が支え、女性がいなければ回らない]

強く印象に残ったことは、トラックでの輸配送を除く物流の現場のほとんどが、「時給1000円前後の非正規」に支えられており、とりわけ「女性の力が必要不可欠」という現実だ。

これは物流業界に限ったことではなく、飲食や小売などの多くの業界でも一般的と言えるが、現場で働く人のほとんどは時給1000円前後の非正規職員だ。北海道の最低賃金は令和4年10月からは920円、同5年10月からは960円であり、賃金水準は「最低賃金プラス数十〜百数十円」といったところだ。

現場の規模にはそれほど関係なく、管理する少数の正社員は多くの場合、現場にはあまり顔を出さず、また、現場にいても作業を行うことは多くはなく、事務所や現場にあるPCに向かうなどして、「問題なく進捗しているか」を管理する仕事に就いていた。フォークリフトは例外として正社員が多かったイメージだが、中には非正規フォークマンもいた。そして、限られた機会ではあったものの、経営層を現場で見ることはほぼなかった。

これは、経営戦略の策定や執行を担う立場、それぞれの現場をマネジメントする立場、現場で汗水を流して働く立場、それぞれの役割が違うため、それほどおかしなことではないが、後にも述べる通り、「現場の問題が、管理者や経営陣にフィードバックされるスピード」、また、「経営陣が定めた方針やルールが現場で徹底されているかというチェック体制」にいささか課題を感じる部分ではあった。

時給1000円前後のアルバイト、パート、日雇いなどの従業員は、主婦層、派遣社員、学生、シニア、フリーターが多くを占める。中には外国人やダブルワークの人も見られた。特に日中の時間帯では、重量物を多く扱う一部の業務を除けば、女性に支えられていた現場が多かった。主婦層のアルバイト・パート・派遣従業員により、作業のみならず、新人の指導や進捗管理まで行っているケースもあり、「女性がいなければ物流は回らない」「物流センターの主力・実行部隊は女性」という印象を持った。物流には未だ3Kのイメージが根強く残り、女性からは良いイメージを持たれていないのではないかと勝手に思っていたので、これは割と意外だった。

現場で見た非正規従業員の多くは、責任感が強く、熟練し、与えられた仕事を不足なくこなしており、これが正社員であったとしても全く遜色ないマルチタスクの働きをしている人材も少なくなかった。問題なく現場が回るよう、真面目・勤勉に働く人がほとんどだった。

ただ、業務の多くが膨大な単純作業の積み重ねと組み合わせであり、それゆえに労働に対する付加価値はそれほど高くはなく、賃金水準がそれほど高くはないのもそれが理由だと感じた。仮に時給1000円で1日8時間、月間22日働いたとして、月給18万円弱。通勤手当がついたとしてプラス1〜2万円前後。これが物流現場でフルに働く非正規従業員の報酬水準といえる。物流現場では、多くを占める非正規の立場では、1ヶ月間フルに働いたとしても20万円前後、年間では250万円前後の収入の仕事と言えた。逆に言えば、より高い給与を支払っている正社員だけで運営することが難しい職場であった。

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