「仕事ができるドライバーほど残業代が少ない」問題 事業者の工夫は

不規則で長時間の拘束が多いトラックドライバーにも実労働時間での給与支給が求められるようになる中、事業者の頭を悩ますのが「仕事ができるドライバーほど残業代が少なく、効率が悪いドライバーほど残業代が多くなる」問題。

道内の事業者は「残業時間をきっちり把握して清算すると、仕事の効率がいい従業員の残業代が少なくなり、この分をカバーするため、評価手当を導入しているが、残業分を上回ることがない。結果、仕事ができる人間の不満が溜まり、『残業が少ないことはいいこと』という意識転換が進まない」と話す。また、「ドライバーの本能として、『遅れたくない』という考えが常にあり、そのため早めに出庫し、着地の近くで待機するということはどうしても起きる。これはドライバーが『金を取ろう』と思っているわけではないが、完全にやめさせることも難しい」と話す。

こういった問題を解消するため、工夫している事業者もいる。
道央の事業者は、運行ルート毎に業務にかかった時間のデータを多く集め、「平均的な業務時間」を算出、これをもとに「みなし残業代」を導入した。仮に「平均3時間30分」のルートで、仕事が早いドライバーが3時間で済んでも3時間30分のみなし残業代を含んだ金額を支払う。遅い場合も3時間30分の分を支払うが、これは「労基署等の指摘」や「裁判のリスク」が残る。
しかし、同事業者は「ドライバーが裁判を起こし、会社が負けたとしても、平均的な時間を超過した分だけなので、大きなリスクにはならない。説得力のあるデータを基にした残業時間の設定なので、極端に長い残業が続くケースなら、労基署にも『ドライバーが残業代稼ぎをしている』と説得できる可能性が高い」としており、「早く仕事をして、早く帰宅するドライバーを正義という価値を植えつけたい」と話している。

別の事業者は、「車種や仕事の内容、勤務経験」などを考慮して、ドライバーにその年の賞与を含めた給与の総額を提示し、労使の合意のもと「年俸契約」している。この際、歩合給や手当てを完全に廃止した。所定の労働時間と月間最大の残業時間で割ると、そのドライバーの「時給」が算出される。
年俸は労働時間が当初の想定より少なくても減らさず、繁忙期などで残業想定より増えた場合には、時給をベースに超過分を支払う。その年の勤務実態は、翌年の年棒査定に跳ね返るので、「やってもやらなくても同じ」ということもなく、「早く仕事を終えた方が得」となり、モチベーションの低下も見られないという。同事業者は「年俸制は、頑張れば翌年に跳ね返り、『安心できる』『ミスなく』というインセンティブも働く」としている。

北海道では10月3日から、最低賃金が前年より26円アップし「時間額861円」となる。過去最大の引き上げ額で、16年連続の引き上げ。平成元年の最低賃金は472円であり、30年あまりで400円近く上昇した。
ドライバーの1か月の所定労働時間を仮に172時間とすると、今回の改定額での基本給の最低額は14万8000円あまり。歩合給なども盛り込んだ給与体系であっても、ドライバーの給与額を1時間当たりに換算した金額が861円未満となっていれば、地域別最低賃金額未満となり、最低賃金法違反にあたる。

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