「事故が減ったのはこれだ!?」(上) 行政書士佐々木ひとみ氏連載 


とある営業所へお邪魔した際のこと。

ここは本社からは事故が非常に多くどうしたらいいのかと相談を受けていた営業所だった。
他の営業所と同じように運転者への講習をしてほしいと言われ、初めて訪問したときに一目で事故が多い原因がわかった。
まずは、社内が雑然としている。所長が慌ただしく動いていて落ち着かない。従業員は集まらない。最初は並べた椅子の3分の1くらいしか社員が集まっていなかった。みんな暗い顔しているなぁ。ぐったりしている。なぜこんなことに付き合って長居させられるのかとでもいいたげな不満顔。30分ほど過ぎた辺りからボチボチと人が加わる。所長はたえず電話なのか、中座する。途中で出発するドライバーは抜けていった。
最後までざわざわした中で講習を終えた。

それから1年半、同じような状況で3回目を迎えたときに…切れた。
今回はまだプロジェクターはあったが、(最初はそれすらも用意されていなかった。笑)スクリーンがない。映すところがないではないか。初めてでもあるまいし。
おまけに私は4時からと聞いていたが一切人はいない。ドライバーは4時半からと聞いていたそうだ。なんとかやったが、効果は期待できない。その日の会食でついに私は所長に「どういうことなのか。」と詰め寄った。
生意気にも私は「あなたがこういう状態だからドライバーも落ち着かないのだ。落ち着かないから事故もなくならない。すべてはトップであるあなたの責任ではないか。」と言い放った。
所長はすまなさそうに「はい、そうですね。」とうなだれるばかり。もう、本当にこの営業所いやだわ。。。と思い、帰ってきた。

なんとその営業所がその1年後の講習前に本社をお邪魔した際に、「まさか」の事故0になっていたのだ。

その半年前にその営業所にお邪魔した際、講習後に再度所長と会食をしたときのこと。
いろんな話の中から「先生、私以前調理人だったんですよ。」とその所長が話し出した。
このあいだね、ドライバーが精気のない顔しているもんだから、『どうした、元気ない顔して。何かあったのか?』と聞いたら『ええまぁ』とね。
なもんだから、『よし、昼飯作って待っていてやるからしっかり今は運転して帰ってこい、何食べたい?』と聞いたら、『カツ丼が食べたいなぁ。』って言うもんだから、作って待ってましたよ。
そしたら、そのドライバー、帰ってきたらニコニコしてね。カツ丼うまいです、ってあっという間に食べてしまいましたよ。先生、俺、本当に料理うまいんですよ。最近、おでんとかナポリタンとかいろんなもの作ってみんなに食わせてやるんです。近所でも評判なんですよ。

…それって自腹なの?と聞くと、そうです、でも、一人の分だけ作るわけにいかないでしょ。と。
へぇ。自分の給料で。じゃ、私も今度来たら食べてみたいな。と言ったら、どうぞどうぞ何でも言ってくださいとのこと。
じゃ、ナポリタンが食べたいな。2月か3月にまたこの辺寄るから行ってもいい?と聞くと待ってます、との返事。

それからあっという間に時が経ち、連絡一つしないまま、その近辺に行く日が近づいた。
前日に「明日行きますが、お邪魔してもいいですか?」とだけ連絡を入れた。「お待ちしております。」との所長の返事。
では「1時半頃着くバスで行きます。」と伝えた。
副所長が迎えに来てくれて、営業所に入っていくと、なんとナポリタンができていた。おそるおそる食べてみるとなんと美味しいこと!そんじょそこらのレストランよりずっと美味しい。気が付いたら完食。というか、なんとこの営業所の中の明るいこと。
ドライバーさんもみんな帰ってきてそれぞれにナポリタンを食べている。あちこちから笑い声。

私が数か月前に言ったナポリタンが食べたいということを覚えていてくれた。きっとドライバーにもそうしているんだろうな。
ドライバーのみんなも数年前から見たらとっても明るい。みんなで喋っているし、笑い声が絶えない。
これなんだ。事故が無くなった要因は。

聞くと、最初のころは自分も所長になったばかりで売上に追われていて必死だった、ドライバーも兼ねてやっていて、本当に寝る時間もなかったのだそうだ。
でも、必死にやってきたおかげで売り上げもそこそこ伸びてきた。事故起こしながらもドライバーも一生懸命ついてきてくれた。これからです、うちの営業所は、と話していた。
こんなにも営業所のこと、仲間のこと、必死で考えている人もいないなと改めて考えさせられた。所長の本気度がドライバーにも伝わるいい事例を見せてもらった。

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