スクラップ輸送を展開する山一運輸(服部浩司社長、札幌市手稲区)は6月に2台目となるスカニアのトラクターヘッドを導入した。道内のスクラップ専業として、スカニアを入れているのは「他社ではほぼ見かけない」(服部社長)という。「本当によく頑張ってくれているうちのドライバーに格好良いトラックを乗せてあげたかった。良い車に乗り、良い顔で車庫から出て行くドライバーの顔を見たかった」と同社長は語る。今後、5〜6年という早いペースでの代替を進め、「最新の車両」で「コンプラ徹底の効率的な輸送サービス」を常に提供していきたい考えだ。
1台目のスカニアはおよそ1年前に導入、女性ドライバーの硲可愛さんが乗っている。服部社長は「国産車より数百万円も車両価格は高いが、当時、道内でスカニアに乗る女性ドライバーはおらず、『目立つだろう』と考え、勢いで購入した」と振り返る。スクラップの積み下ろし現場は悪路も多く、「入れない現場があるかもしれない」との懸念はあったが、1年間問題なく稼動した。
2台目は今年6月14日に納車、同社のベテランドライバーの佐藤新さんが翌日より運行している。「トラックが本当に好きで、会社が苦しい時期から、何も言わずいい仕事を続けてくれたドライバー。彼がスカニアに乗る姿が見たかった」と同社長。
新車について、硲さんは、「乗り心地がよく、住めるくらいの広さ。この車を味わってしまうと、もう他の車に乗れない。最高の車」と即答。同社では、ヘッドは「無地でホワイト」が基本だが、社長との交渉で勝利し、「ピンクのグリフィン」をペイントした。
佐藤さんも「納車した日は嬉しくて、車内で宿泊した」という。「滑らかで乗りやすく力がある。現場でも初めは傷がつかないよう、気をつけてスクラップを積んでくれた」と話す。
服部社長は「トラックが好きで、本当によく働いてくれるドライバーが多く、こっちからストップをかけないといけないくらい。給与は歩合部分がないため、『走った分だけ』『積んだ分だけ』自分の実入りにつながるわけではないが、それでも各自、積載率や回転率、実車率を頭の中で組み立て、効率的な運行を自主的に判断し、荷主のニーズに応えている」と自社のドライバーに絶対の自信を示す。
事務所では大まかな配車指示はするものの、スクラップ輸送では、現場に出てからのドライバーの判断により、輸送量や運行本数が大きく変わってくるのが実態だという。「質が高く、替えが効かない仕事ぶりが大きな武器。これだけ効率的にスクラップを運んでいるドライバーは、道内では他にはいないと断言できる」と話す。
「現場で車両はすぐに汚れや油まみれになるが、ドライバーはいつも時間をかけてピカピカに洗車している。困ったことに、一度帰らせても、こっそり戻ってきて洗車を続けるドライバーもいる。洗車にかかる水道代と燃料代が大変なことになっている」と笑い、「ヘッドを変えても売り上げは変わらないが、気持ちよく仕事をしてもらえるなら、今後も良い車に乗せてあげたい」と話している。
車両が「汚れやすい」「傷つきやすい」環境であるにも関わらず、同社が高額なトラックを積極的に導入し、早いペースでの代替を計画しているのは、輸送品質を武器に荷主と継続的に交渉し、運賃を劇的に改善させていることが大きい。運賃はこの4年ほどの間に、実に25%という大幅な値上げを実現させた。
運賃交渉は決死の覚悟で取り組み、結果につなげた。長い間なかなか実らなかった状況の中、「無理なら、もう当社を切ってください」とメーンの荷主の担当者に迫った。主力業務を全て切られ、会社の存続も見通せない状況に陥る可能性があったが、自社のサービス品質に対する自信が後押しした。
同社長は「これだけ一生懸命ドライバーが頑張り、良い仕事をしても、運賃が変わらないなら、『もう当社が存在する意味もないのではないか』と考え、開き直って交渉した。抜本的な改善ができなければ、『今死ぬのか』『我慢して少しだけ延命するのか』の違いでしかなく、どうせ倒れるなら、前向きで倒れようと考えた」と話す。
同社長は「震えながらの交渉だった」と振り返るが、この気迫が実り、大きく運賃が改善し、ドライバーの待遇改善と積極的な設備投資が可能となった。また、同社の動きに伴い、同じ仕事に従事する他社の運賃も同水準に上がった。「他社はうちに感謝しているのではないか」と話す。
大幅に値上がりした運賃を原資として、「給与アップ」と「労働時間短縮」「休日付与日数の増加」を同時並行して毎年進めるとともに、「最新のトラック」を順次導入。法令を遵守しながら、荷主の要望に応えるサービスを持続的に行える環境を整えた。従業員の満足度を高め、企業存続に向けた体制整備を同時並行で進めた。
ある日、荷主から「燃料価格や燃費データを示してほしい」との打診が急にあった。燃料高騰が長く続く中、理由がわからないまま、これら資料を持っていくと、役員から「お前の会社があったから運べた」と労いの言葉をかけてもらい、車両1台あたり非常に多額の補填金を受け取った。この時は男泣きしたという。
コンプライアンスの徹底も同社の大きな武器だ。改善基準告示や法定速度での運行を守るのは当然で、荷主の都合でドライバーの拘束時間が伸びた時は、「事務所のすぐ近くまで戻ってきても、そこで一泊させ、2日分の運行として運賃をお願いする」という徹底ぶり。「少しくらい」「今回だけ」という妥協に流れないよう意識している。
ハード部分では「スクラップ輸送でもいつもピカピカな車」、ソフト部分では「圧倒的な輸送効率とコンプラの徹底」を強みとして、従業員の満足度と荷主の満足度を高めており、「2024年問題」に係る労働時間の課題や、人材の採用・定着に関する悩みも「ほとんどない」(同社長)という。
「会社や仕事が嫌になり退社するケースはここ数年発生していない。逆に、キレイな車で目立つため、『働きたい』という入社希望者が毎年来るが、断っている状態。今後、導入していく車両でも、ドライバーや荷主が驚くような、新しい趣向を取り入れていきたい。『ドライバーに幸せを』という価値を一番大事にしており、そのためにも、今後もいい車両を導入し、いい仕事をしてくれているドライバーの待遇をもっと改善していきたい」と語る。