北海道の物流現場への潜入、その雑感⑸

[現場の作業員は、その作業の意味合いをあまりわからない]

また、これまでの話とつながることだが、物流現場では、自分の手がける仕事が「どのような意味を持っているのか」と意識できるところも極めて少なかった。これを理解するのと、しないのでは、仕事に対する向き合い方や達成感が大きく違ってくるはずだと感じた。

「現場は、ただ与えられた作業だけをしてくれ」といった感じで、目の前の仕事にフォーカスして黙々と作業を行うことも決して悪くはないが、「生産から消費までの一連の流れの中のどの工程にあるか」「どのような現場から引き継がれ、次にどのような現場に引き渡すのか」と少し視野を広く持ち、「その中で自分が行なっている業務は、どのような意味合いを持つのか」を意識することができれば、仕事のモチベーションややりがいに少なからず影響があるのではないだろうか。しかし、「どのような手順で作業を行うか」は教わっても、「その作業が、どのような流れの中にあり、どのような意味合いを持つのか」を積極的に従業員に理解してもらおうとする現場はほとんどなかった。

例えば、「ここで扱う荷物は、届くまでに本州の2カ所のセンターで仕分けされ、輸送されている。ピッキングや搬送、検品などみんなと同様の作業に多くの人が関わっている」「このセンターではメーカーA社の工場からの道内向けの製品を全て受け入れ、保管・仕分けし、道内数カ所の卸や小売のセンターに向けて出荷する。うちのセンターが機能しなければ、メーカーは北海道に製品を販売できないし、道内企業もA社の製品を使えなくなる」「うちのセンターは小売チェーンB社の何十店舗に向けて常温の商品をカゴ車に仕分けて出荷している。みんなが普段B社で買う常温商品はうちのセンターから出ている。みんながピッキングした商品は、店舗で明日買い物客が手に取り、家に帰ってそのまま食べるものだ」といったことを知る機会はほとんどなかった。「このような手順で、この作業を時間までやってくれ」という現場がほとんどだった。

その現場で行わなければならない作業の手順だけではなく、「その作業の意味合い」までを現場の一人ひとりに伝えることは、「そんなことをしても意味がない」と思われるかもしれないが、「自分の仕事はどのような意味を持つのか」「具体的に誰の役に立っているのか」を全く考えない人は少ないはずだ。仕事の意味合いを理解してもらうことは、ほとんど費用をかけずに「定着率の向上」「モチベーションのアップ」に繋がりうる簡単な施策であり、ひいては「生産性の向上」にも寄与する可能性もあるはずだ。物流現場は、単調な作業が続く場合も多いが、決してひどく辛い仕事でもなく、面白くない仕事でもない。自分の働きが、「商品が作れる、運べる、売れる、消費する」ということにダイレクトにつながると具体的に意識してもらうことは、そのようにしている現場が少なかった分、有益なことであると感じた。

[オペレーション改善の余地は非常に大きいが、それほど積極的ではない]

現場作業の多くは人手による膨大な単純作業であり、ほとんどが「これまで通り」の手慣れた手順・方法を踏襲している。基本的に「その日に行わなければならない業務を回す」ことが最優先となっている。このため、多くの現場では、「やらなければならない仕事をこなせている限り」においては、一連の業務における「ムリ・ムダ・ムラ」を見つけ、これを改善するということにそれほど積極的ではなかった。これは現場で働く人のみならず、管理側にもそのような傾向があるように思えた。やり方やルール、動線やロケーションなどを頻繁に変更すると、当然、現場が混乱する可能性もあるため仕方ない面はあるものの、総じて改善・変更に積極的な現場は非常に少なかった印象だ。

しかし、そこで行われている一連の作業やルールを「本当に効率的なのか」「もっと簡単な手順はないのか」「もっと間違いにくい手順はないのか」といった視点で考えれば、改善の余地はどの現場においても非常に大きいように感じた。

現場を効率的に運用するためのヒントは、現場で働く人が多く握っているはずだが、現場作業員の「おかしい」「やりにくい」「このほうが良いのでは」といった感覚や改善に向けた知見を、管理者や経営陣が汲み取る仕組みやインセンティブが全般的にあまり整備されていないように思えた。

働きやすいと感じた現場はもれなく「手順がシンプルで、例外的な対応が少なく、間違いが起きにくい」オペレーションを意識しているようだった。
例えば、ケースをピッキングし、仕分けする業務を複数の現場で経験したが、その方法は現場によって「ハンディ画面の指示通りに作業する」「管理者の口頭の指示により作業する」「紙の出荷指示書に従って作業する」など様々であり、また、ピッキングや仕分けした後の工程も、「まとめた商品を一箇所に置く」だけのケースもあれば、「それぞれをトラックバースまでその都度持っていく」「仕分けした商品名と個数をその都度紙に手書きで記し、検品担当に引き継ぐ」など様々だった。ピッキングする商品のロケーションや棚の番号のふりかたにも多様なケースがあり、通路や保管されている棚の位置、棚の段や列などが「規則的に番号が設定されている」現場もあれば、そうでない場合もあり、時には構内の各所に細かい番号を一切付与しないで、感覚的に商品を保管しているのではないかと思えるような現場もあった。棚に番号が付与されている場合でも、全く同じ番号に複数の異なる商品が置いてあり、目視によってどの商品をピッキングするか個人が判断するというケースもあった。

ハンディを使用してピッキングをする際にも、「商品のJANコードだけを一度スキャン」するケースもあれば、「商品のJANコードをスキャンした後、ハンディに個数を打ち込む」「商品のJANコードと棚にあるコードをともにスキャンする」「商品のみをスキャンする場合と、棚のみをスキャンする場合が入り乱れている」など、オペレーションの設計に違いがあった。間違いが発生しにくいようオペレーションをよりシンプルに改善することは常にできると思うのだが、そういった動きを見る機会は非常に少なかった。

また、整理や整頓に関するあり方も現場ごとで大きな違いがあり、例えば、「ハンドリフト」を使用しない場合の置き場では、「きっちりと決められた場所に、決められた向きで置く」「だいたいの場所に置く」「置き場所のルールが決まっておらず、都度、空いているとおころに置かれている」など、様々なケースがあった。どの現場においても、そこで続いている作業手順や方法には一定の合理性はあると思うが、「手順のシンプルさ」「間違いを起こさない工夫」などの点では、大きな違いがあった。

ある現場では、複数人の作業員がそれなりの時間をかけて積みつけたカートをバースまで搬送するが、その後、トラックに積み込む際、トラックの積載を増やすために、荷室内で別の複数人でカートから荷物を一旦おろし、バラで荷室の上方まで再度積みつけ作業を行なうことがあった。これは「そのトラック1台の積載率」のみを考えれば部分的には合理的かもしれないが、サプライチェーン全体から見れば、それにかかる人員・時間が著しく非効率なことは明らかだ。だが、そういった対応はこの現場では珍しくはなく、長い期間にわたって行われていたようだった。

物流現場では、これまでそのやり方で回ってきた現場のオペレーションは基本的にあまり手をつけない印象が強かった。

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