北海道の物流現場への潜入、その雑感⑺・最終回

[管理側と現場のコミュニケーションはそれほど密ではなく、双方向の交流があまりない]

上述した通り、管理側が現場に顔を出すこと、また、現場の人間が管理者やましてや経営層とコミュニケーションをとる場面は多くはなかった印象だ。業務開始前に作業員を集めて、簡単な報告や注意事項を伝える場を設ける現場もいくつかあったが、現場の喧騒によって「管理者が何を言っているかが聞き取れない」というケースも少なくなかった。
このため、「管理側が決めたルール」を「現場がきっちりと従う」、また逆に「現場がおかしいと思っていること」が速やかに「管理側に伝わっている」ということが、あまり上手くいっていないように感じた。これは「現場からのフィードバック」と「管理側の方針が徹底されているか」といったことを確認する仕組みが整っていないとうことだ。

基本的に物流現場で最優先されるのは、「その日行わなければならない作業を、時間までに事故なく終える」ことであり、これが実行されている限りにおいては、現場を巻き込んだミーティングや意見交換などの機会は多くはなかった。
「決めたルールが守られているか」「決めたルールが、作業をする上で支障をきたしていないか」「もっとやりやすい作業手順はないか」「このセンターのボトルネックはどの工程か」「安全性を高めるためにやれることはないか」いったことは、現場で働く人間の多くがぼんやりとではあっても「頭の中」に持っている。
こうした「改善のタネ」を拾い上げ、より生産性が高く、安全で、働きやすい現場へと変えていくには、ひとえにコミュニケーションを活性化させていくしかないのではないか。しかし、こういったコミュニケーションを意識的であったり、仕組みとして行っている現場は多くはなく、ほとんどの現場では、「ミーティングなしで作業が始まり、時間が来たら作業を切り上げ、一言挨拶して帰る」というものだった。

17の現場のうちの1カ所では、「作業終了後に現場作業員と管理者を集め、気になった点などを率直にいってもらう」という対応を行っていた。このようなことを毎回必ず実施しているかはわからないが、この際は「A通路に置いてあるパレットが邪魔になっており、その前でピッキングカートがかなり滞留していた」「ダンボールにシールを貼る際、こういうことで何度か失敗をした」など、具体的な現場の課題が何点も挙がっており、それを聞いた管理側は、挙げられた項目をノートに記載をしていた。おそらく、そういった機会がなければ、作業をする方としては現場の問題点を「頭の中」に仕舞い込んでいたはずだ。現場からの声をいつも全部聞くわけにはいかないにしても、こういったコミュニケーションを頻繁に行っている現場と、一切現場からの声を拾わない現場では、中長期的に大きな違いが出るのではないかと確信できた。

また、それほど固苦しいやり取りではないにしろ、ある現場の1人の管理者は作業終了後、毎回「本日も皆様のおかげで無事に仕事を進める事ができました。素晴らしい働きで、本当にありがとうございます。またよろしくお願いいたします」などと非常に丁寧な声かけを全員に対して行っていた。この現場の他の管理者は「お疲れ様でした」くらいの挨拶しかしなかったので、おそらく、この声かけは自分で考えて発したものだと思われる。十数秒程度しかかからないこういった声かけは、言われた側には良い印象が強く残り、ひいては定着率の向上にもつながるのではないかと感じた。

こういったことから、現場と管理・経営側とのコミュニケーションをそれほど密に行わない多くの現場は、現場改善を進める上で「勿体無い」ことをしていると感じた。

経営・管理側は現場の課題がそれほどよく見えない。現場は与えられた仕事をただこなす。それだけで終わるのはもったいなく、両者のコミュニケーションを活性化させることで、より良い現場へとつながっているのではないかと強く感じた。

[センター同士、横のつながりがなく、ベストプラクティスの共有が進んでいない]

どの荷物をどれくらいの数量を扱っているか、どのような機器やシステムを使っているか、どのようなオペレーションを行っているか、といった企業秘密が多いとしても、他社のセンター同士でノウハウを共有するということは、特に北海道においては非常に消極的だと感じた。昨年、一部大手小売が中心となり、物流改善に向けた研究会を北海道で立ち上げ、そこでは「初めに相互のセンターの視察」を行ったとアナウンスをしているが、それでも研究会のメンバーは「他社のセンターを見たり、自社のセンターを見てもらう機会は初めてだった」と言っており、基本的に「センターは横のつながりが薄い」というのが現状のようだ。トラック運送なら、経営者同士や実務者同士に一定程度つながりがあり、場合によっては「協業に向けた話」「課題解決に向けた相談」などが割と気軽に行われている実態があるが、それに比べ、センターはつながりがより薄いようだった。

機密が多いという側面はどうしようもないことではあるが、一方で、「優れたオペレーションやセンター運営の考え方」などが共有されないため、北海道全体という視点で見ると「センターのベストプラクティスが広く知られず、生産性向上に向けた機会をある意味限定してしまっている」ということを指しているように思える。

複数のセンターで同じような業務に携わると、「ここは手順がシンプルでやりやすい」「初見ではとても覚えられない」「ここは動線が悪いな」「人間関係を作ろうとしているな」など、色々と感じることがあり、明らかに「優れたノウハウ」「ダメなオペレーション」というものが見えてくる。しかし、センターを運営している企業にとっては、他社の状況を知るすべが多くはなく、他の現場との交流や視察など、もう少し拡大できる余地があるのではないかと感じた。

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