北海道胆振東部地震発災から9ヶ月 「非常時に備えた物流・サプライチェーンの訓練」を

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震とそれに伴う道内ブラックアウトから9ヶ月が経過した。
とりわけブラックアウトの影響は極めて広域に及び、最大停電戸数は約295万戸となり、道内では広域的に経済活動が一時ほぼ麻痺する状況となった。北海道総務部危機対策課によると、停電により営業を取りやめたことによる売上(出荷)への影響額は約1318億円と推計されている。しかし昨今、この災害の記憶は薄れつつあり、物流業界の中で、これを今後の教訓にいかそうとする動きはそれほど多くはないのが現状だ。
このような中、北海道物流開発(札幌市西区)の斉藤博之会長は、今後の災害時に物流が機能するためにも、避難訓練のような性格を持つ「非常時に備えた物流・サプライチェーンに関するシミュレーション(訓練)」を平常時に定期的に行う必要性を説いている。

同氏は「物流は普段はあまり日が当たらない業種と言えるが、非常時では食料・飲料・燃料等が消費者に『届けられない』ことは死活的。これまでは消費者も企業も『届いて当たり前』と物流を捉える傾向があったかもしれないが、今回の震災では商品流通が止まり、短期間ではあったが多くの道民・企業は『望んでもモノが届かない』経験をした。これにより、『モノが届く重要性』をより多くの人に再認識してもらった。社会生活・経済活動を支える物流の重要性が広く再認識されたこの経験をそのままにしないことが重要だ」と主張。
北海道では今年に入って2月にも胆振地方中東部を震源とする地震が再度発生し、厚真町では最大震度6弱を観測した。「今後は大きな自然災害等がいつ起きてもおかしくないという前提のもと、非常時における実効的な物流のあり方について考え、備えていく必要がある。非常時にサプライチェーンがどのような状況に陥るか、また、どのような備えがあれば効果的な業務につながるかを平時より確認をしておくことは、非常に重要なことだ」と話す。

北海道胆振東部地震・ブラックアウトで全道的に物流が大きく混乱したが、多くの物流事業者は「動けないことはなかった」のが実態といえる。しかし、「出荷先や納品先が稼働していない上に、運行経路の安全性が十分に担保できず、かつ、『どこに、いつ、何を、どれだけ』届けるのかという情報が錯綜したため、物流が機能しなかった側面が大きい。
同氏は「『出荷指示をする側』と『出荷する現場』『納品する現場・販売する現場』との間で情報が乖離したうえ、サプライチェーン上で『どこにどれだけ何があるか』『誰がどのように稼働できるのか』『どの商品が必要とされ、どれだけの受け入れができるのか』といった情報が錯綜し、また、責任の所在も曖昧となったため、広く物流が滞った」としており、「非常時に物流が機能するためには、発着地の稼働や運行経路の状況、また、的確な出荷指示を含めた『情報処理』こそが、最も重要な要素だということが明らかになった。非常時においては、このような情報を的確に入手・分析できる状況でなければ、物流が機能しなくなる。震災を教訓として、道内では『災害時における燃料供給・調達』のあり方について検討が行われ、関連する訓練も実施されたが、非常時に『燃料さえあれば物流が機能するか』と言えば、それは表層的な捉え方であり、リスクに備える物流のあり方として決して十分とは言えない」と強調する。

同氏は、避難訓練のような性格を持つ「物流・サプライチェーンに関するシミュレーション」の具体的なプロセスについて、次のように説明する。
①実態の把握
一事業者では限界があるため、組織的な把握を行いやすい業界団体(トラック協会等)や、サプライチェーン全体の実態把握であれば行政が主管となり、「現場で何が起きていたか」を明らかにする。大手はもとより、中小の事業者の実態も丁寧に把握する。

②計画策定のためのシナリオの作成(実態把握の整理)
①に基づき、発災後の状況を時系列に従い、関係者が「どこで、どんな行動をしたか」を整理し、「どんな問題点が生起したか」「そのために何をすべきか」を明確にする。

③基本対処計画の策定
時期的区分に従い策定する。例えば、第1期「発災直後」、第2期「応急復旧」、第3期「本格復旧」のように、「いつ、誰が、何をするのか」の役割分担や関係者への連絡・調整要領(業務フロー、調整メカニズム)を確立する。この際、円滑な情報共有のため自社内、事業者間及び行政との間で取り決め事項(例えば報告要領等)を確立する。

④計画の検証
実効性のある計画の保持とシミュレーションを繰り返し、問題点を明らかにし、対策を施した計画修正をする。事業者単位、事業者団体(トラック協会等)単位、最終的には行政が主管となる検証が必要。実施に当たって、物流の見識者等による「検証スタッフ(検証の準備・実施の統制、状況付与、教訓の収集)」と、サプライチェーン関係事業者による「プレイヤー」を区分する。

⑤問題点の把握、計画の修正
検証結果に基づき、更に実効性ある計画に修正を行う。この際、AAR(After Action Review:事後検討会)を実施する。これは、検証後早い時期に、特徴ある場面を捉え、「何をしようとしたのか」「実際に何が起きたのか」「なぜそうなったのか」「どうすれば良かったのか(対策は何か)」等を④で参加した者が集まり、認識共有を図るもの。

同氏は、「このようなシミュレーションを重ねることによって、サプライチェーンを構成する企業群においては『関係者間での有事の際の運行可否ルールの設定』『有事に効果的な判断を下せる情報処理体制の準備』『混乱が収まった後の発注急増に対する対応』といったことに備える気運醸成につながり、リスクに備える実効的な物流体制の構築につながると考える」としている。

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