川崎近海汽船が12月20日、今年度中での「宮古~室蘭フェリー(宮蘭フェリー)航路の宮古寄港休止」を発表し、少なくない波紋を呼んでいる。
同社では、三陸沿岸道路を利用した北海道と東北・首都圏を結ぶ新たなルートとして2018年6月に宮蘭航路を開設したが、収益の柱であるトラックの乗船台数が当初見込みを「大幅に下回る」厳しい航路運営が続いていた。
この事態を打開すべく、南下便での八戸寄港を実施するなど航路存続に向けて対策をうってきたが、2020年以降は、環境規制に伴う燃料コストの増加が見込まれるなど更に航路運営が厳しさを増すことが予想されるとして、「誠に遺憾ながら2020年3月31日をもって宮古寄港を当面休止する」と決めた。
宮古寄港休止後の4月からは八戸~室蘭航路のみでの運航を予定し、今後は「三陸沿岸道路の全線開通や本州〜北海道間の貨物動向を注視しながら再開に向け検討を継続していく」としている。
北海道と東北を結ぶ新たな航路であり、室蘭港では約10 年ぶりの航路復活となった宮蘭航路だが、就航からおよそ1年半で休止の発表となった。
同航路のトラックの乗船台数が伸びなかった要因は複数考えられるが、代表的なものとして「宮古から東北自動車道に接続する高規格道路の三陸沿岸道路が整備途上で、本州側の交通アクセスがまだ十分ではなかった」「フェリー航路が充実している苫小牧港がすぐ近くにあり、フェリー港湾として室蘭はマイナーな地位にあった」ことなどが挙げられる。ただ、三陸沿岸道路は2020年度中に全線開通する予定であり、物流にとっては「宮蘭航路が活きてくるのは2020年度以降。これからトラックの需要が増える」と見る向きも多かった。
しかし、同航路休止の本質的な要因は、就航計画当時に持っていた「唯一の強み」がなくなったという点が何よりも大きい。当時、トラックドライバーの労働時間の基準を定めた改善基準告示では、トラックがフェリーを利用する際、乗船時間のうち2時間を労働時間とし、残りを休息期間とする取り扱い(フェリー特例)となっており、これがドライバーの拘束時間を圧迫していた。
宮蘭航路は、北海道発着のフェリー航路として唯一の「10時間の運航時間」として計画され、2時間を労働時間とされても乗船により8時間の休息期間が確保できた。従って、同航路は計画当時は「ドライバーが8時間の休息がとれ、降りたら直ぐに走れる唯一の航路」という大きな強みがあり、「フェリー特例対応の航路」という側面が強かった。
しかし、思いがけないことに、フェリー特例は2015年9月に運用が改正され、乗船時間が全て休息とされる取り扱いに変わった。これにより、運航時間が約8時間の苫小牧〜八戸航路も同様に「降りたらすぐ走れる」航路となったほか、他の航路もドライバーの拘束時間に余裕ができるようになった。外部環境の変化によって、「計画時には大きな強みを持っていたが、就航時にはこれが消失した」ことになった。
実際、宮蘭航路が開設された後、道内複数の運送会社にヒアリングをしたが、同航路を定期的に「活用している/活用したい」という声はほとんど聞かれなかった。しかし、北海道と本州を結ぶ物流ルートの1つが短期間で消えてしまうことについて、休止発表後には「残念」「先細る北海道経済の行く末を暗示しているようだ」などとする反応があった。宮蘭航路は北海道の物流企業にとって「あってほしいが、定期的には使わない」ものとなっていた。