「やさいバス北海道」スタート初日に密着 その可能性を考える

北海道に新しい形の物流のプラットフォーム「やさいバス北海道」が誕生した。
スタート初日、車両の出発から、バス停での集荷、購買者への商品引き渡し、商品が店頭に並ぶまでの一連の工程に密着。北海道での物流の効率化を進める、持続的なプラットフォームとなり得るのか考えた。

北海道コカ・コーラボトリング(佐々木康行社長、札幌市清田区)は5月20日、地域課題の解決に向けた新たな価値創造の取り組みとして、グループの幸楽輸送(不動直樹社長、同)とともに、やさいバス(加藤百合子社長、牧之原市)と協働して、ECと共同配送の一体型青果流通プラットフォーム「やさいバス」の北海道版をスタートさせた。

ECサイトからの注文に基づき、専用車両が様々な場所に設定された「バス停」を巡回して、農産物の出荷と配達を行う流通の仕組み。車両は時刻表通りにバス停を巡回し、生産者が朝に収穫した商品をその日のうちに購買者に届けることができ、購買者は新鮮な商品の販売ができる。
現在、静岡県をはじめ、茨城県、千葉県、神奈川県、長野県、滋賀県、大阪府、兵庫県、広島県などで展開しており、この度、北海道コカ・コーラボトリンググループと連携し、北海道にも上陸した。やさいバスのシステムを活用し、北海道コカグループが物流を担うほか、生産者や購買者、販売店などの新規開拓や商品調整などのオペレーションサポートを行う。

スタート初日、北海道コカ本社敷地内に駐車していた「やさいバス」のステッカーを貼付した2㌧車に幸楽輸送のドライバーが乗り込み、午前7時に出発。両社の社員が手を振って見送る中、1つ目のバス停である農業生産法人のAmbitious Farm(アンビシャスファーム、江別市)に向かった。
8時15分にトラックがアンビシャスファームに到着。冷蔵庫に保管されていた路地野菜や越冬ジャガイモなどの野菜4ケースを車両の保冷ボックスに積み込み、時刻通りに出発した。
アンビシャスファームの柏村章夫社長は、「生産者にとって、小口出荷の際の物流がネックだった。商品の配達が難しく、それを安価にやってもらえる。やさいバスは、鮮度のいい状態の野菜を安く届けてもらえ、生産者にも購買者にもいい仕組み。今後もワクワクしている。商品が好評なようなら、来年の作付けにも反映させたい」と述べた。

トラックは次のバス停である松浦農園(千歳市)に向かい、同農園でも集荷。各バス停を周り、16時20分に道内最大の百貨店である大丸札幌店の地下駐車場に到着。この日引き取った野菜8ケースを、大丸札幌店のデパ地下で青果販売を展開するフレッシュワンの担当者に引き渡した。
フレッシュワンでは、「やさいバス専用売り場」が設けられ、商品の受け取りから約30分後、カブ、からしな、スイスチャード、ビーツ、とうもろこしといった新鮮な野菜が並べられ、一般消費者に向けての販売が開始された。
フレッシュワンの担当者は「生産者の顔が見える野菜をチョイスした。朝採れ野菜が夕方に販売でき、鮮度がいい。これまでは色々な生産者からそれぞれ宅配便を使って届けてもらっていたが、やさいバスは一台のトラックで多くの生産者の商品が同じ時間に届くので、引き取りの手間も減り、物流コストも抑えられる」と話した。

やさいバス北海道は、当面、月水金の週3日に運行する。ルートは2つで、月曜日は「江別石狩ルート」、水・金曜日は「恵庭千歳ルート」を運行。車両はそれぞれ10前後のバス停を回って集配する。現在の登録者数は、生産者約45、購買者約30となっており、順次登録も増えていく見込み。今後、登録者の推移や集出荷の頻度などを見ながら、より効率的なルート・時刻表を設定していく。

やさいバスの仕組みはいたってシンプルだ。
会員登録した生産者が売りたい商品を、購買者が欲しい商品をそれぞれシステム上に登録し、需給がマッチングすると、生産者は注文に応じて収穫した野菜をバス停に置き、購買者は注文した商品をバス停で受け取る。バス停では、予め設定された時刻表通りにバスが巡回し、ドライバーが商品の集配を行う。
このため、「今すぐ来て欲しい」「この時間帯に来て欲しい」というニーズには基本的には対応できず、また、バス停がそのまま生産者の農地や販売する店舗に近接している場合は問題ないが、そうでない場合は、最寄りのバス停まで「商品を置きに行く・取りに行く」という手間が発生する。
こういった「使い勝手の悪さ」を受け入れれば、生産者と販売者が直で結びつくシンプルな供給体制となり、非常に安価な物流コストで商品の流通が可能になる。

それでは物流コストはどれくらい抑えられるのか。
アンビシャスファームの柏村社長は「これまで札幌市内までの配送は、クールの宅配便を活用していたが、1ケース1000円程度のコストがかかった。やさいバスでは1ケース350円と半額以下。さらにオリコンも貸与され、段ボールなど包装・梱包の費用も抑えられる」と話す。商品のサイズや距離にもよるが、ざっくり物流コストが半額以下になると見られる。

やさいバスでは、ITでの間接業務のコスト圧縮により、市場も卸も介さず、生産者の価値配分を最大限に引き上げることを目指している。また、物流コストを購入者の負担として別建てで考えている。

やさいバスの調べによると、一般的な市場流通での価値配分は、生産者が40%、市場8%、物流17%、卸10%、小売25%といったものだという。農家は商品売価の4割しか受け取れない計算となる。これがネット通販では、生産者が50%、物流・センター費が50%といった配分となり、直売所では、物流コスト込みで生産者が82%、手数料が18%といった配分となる。
やさいバスでは、これを生産者85%、やさいバス側が販売手数料として15%受け取るようにし、さらに、これとは別に購買者が1ケース350円の物流コストを負担する。

やさいバスは、システムを活用することでの固定費がなく、生産者にとってのデメリットは基本的にない。積極的な営業をしなくても、システムを通じて販路拡大も期待できる。
また、購買者にとっても「欲しい商品を出荷してくれる」生産者がいれば、安価なコストで配送してもらうことができる。購買者も購入した商品にかかる配送料を負担するだけなので、固定費はかからない。
となると、この仕組みを持続可能なものにするには、「物流」が肝になる。

やさいバス北海道では、1ケースの配送料を350円と設定。スタート初日の物流コスト(物流側から見ると売上)は、8ケースだったので2800円。これを持続可能にするには、2㌧車での運用では常時100ケース程度の商品を扱う必要がありそうだ。
商品を一般消費者に販売する購買者と、出荷する生産者を開拓し、このプラットフォーム上で常時、「荷物が多く流通する=車両に多く積載する」状態にすることがひとえに求められる。

幸楽輸送の不動社長は「北海道コカグループでは、北海道に貢献する活動を積極的に進めており、やさいバスのプラットフォームの運用もその一環。準備をする中で、小規模出荷に困っている生産者の多さに驚いた。こういった生産者のニーズをすくい取り、北海道を元気にするお手伝いをしていきたい」と話す。
また、当面は専用車両での集配を行うが、既存の飲料品のルート配送と絡めることができれば、北海道コカグループにとっても車両の積載率や実車率の向上や物流の効率化が期待できる。
不動社長は「将来的には、エリア内のルート配送だけではなく、道内の地域と地域を結ぶ広域的な生鮮品輸送や、北海道と道外を結ぶ大量の生鮮品輸送のプラットフォームになりうるか、機会があればチャレンジしたい」としている。

このほか、十分な荷量が見込めれば、野菜のみならず、様々な種類の商品を安価に配送するプラットフォームに応用することも考えられる。
このようなことを考えれば、やさいバス北海道は、「ラストワンマイルの利便性の悪さ」を受け入れた人にとっては、「シンプルで安価な物流プラットフォーム」として北海道に定着する可能性を秘めている。

北海道コカ・コーラボトリングでは「同事業では、グループで持つ経営資源を活用し、北海道内の物流を担うほか、生産者や販売店など多くのパートナーとの連携を強化することで、より良い北海道へ向かう好循環への貢献を目指していく」としている。

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