北海道の物流現場への潜入、その雑感⑷

[肉体的な負荷に違いがあるが、賃金水準はそれほど変わらない]

これも様々な職種で同様の状況ではあることは承知しているが、物流においても、どの現場でもそれほど賃金水準に違いはないが、労働環境や作業・労働の肉体的な負荷には極めて大きな違いがあった。逆に言えば、きつい仕事でも楽な仕事でも、賃金水準はそれほど変わらなかった。

例えば、「20kg超の重たいケースを数時間にわたって延々をパレットやカゴ車などに積みつける仕事」と「現場に置かれている使用済みのダンボールを歩いて回収し、数時間にわたってひたすら解体する仕事」は、肉体にかかる負荷は雲泥の差と言えるが、労働者に支払われる賃金はいずれも「時給1000円前後」とに大きな開きはない。むしろこのケースの場合、後者の「肉体的に楽な仕事」の方が時給は高かった。
また、「40ftコンテナに満載のダンボールを一定時間内に手作業で荷降ろしする仕事」と「台車をつかって狭いエリアにあるラックにバラの商品を棚入れする仕事」も肉体的な負荷は全く異なるが、これも賃金の違いはほとんどなかった。
同じピッキング作業でも、「マイナス20度の冷凍倉庫内」「冬季に氷点下の外気温と変わらない環境の倉庫内」「冷暖房が効いた常温倉庫内」ではいずれも負荷は異なるが、これも基本的に時給はさほど大きく変わらなかった。仕分け業務でも「重くて大きなダンボール」を扱っても、「ポストに投函できる封筒」を扱っても、時給はほぼ変わりはなかった。

これは「仕事に不公平感がある」と言いたいのではない。「どのような業務がどれくらいの付加価値の創出につながっているか、その現場にとってどれくらいの利益につながっているか」が全くわからないことからくる「違和感」を感じたということであり、これは物流現場の課題の一つだと思った。

現場で働く多くの人は、基本的に「働く時間」と「時給」しかデータを持たない中で仕事を行い、その結果として収入を得て、心身の「負荷」を感じる。中には「その日に扱う商品の量」を確認してから業務を行う現場もあったが、これは非常に稀なケースだった。こういった場合、「時給」の水準は、どのような仕事をしたとしても大きく変わらないので、その仕事に対する印象は「負荷」の違いが大きく影響してしまう。現場の仕事に対する評価軸は「負荷の違い」=「楽かどうか」という点が大きいというのが実感だった。このため、現場で働く際、どうしても「ほぼ同じ時給なら、負荷の少ない業務に就いた方がラッキーだ」と考えてしまうことはある意味自然なことと言える。

このような状況を改善させるとするなら、仕事に対する評価軸として「生み出した価値」をざっくりとでも認識できるようにするのが良いのではないかと感じた。具体的には、現場の人員が「その日に扱った商品に対して、どのような業務をどれだけの人数でどれだけの時間で行なったことによって、どれだけの売上や利益につながったのか」「自身の業務がどれだけの付加価値を生んでいるか」を意識することができれば、「負荷が大きい/小さい」「キツイ/楽」とは別の評価軸ができるのではないかと感じた。

[現場の従業員は、生み出す価値があまりわからない]

トラックドライバーの場合、「何トン車でこの荷物をAからBまで運べば、だいたいこれくらいの売上につながる」「チャーターで1ヶ月これくらいの売上になる」ということは各自がだいたい把握できる。会社によっては、「この運行で何万円程度の売上・利益になる」「その日・その月にどれだけの売上・利益を生み出したか」といったデータを正確にドライバーに示し、給与等に連動させているケースもある。これは、ドライバーが扱う荷物の量、走る距離、拘束した時間、運賃水準、固定費や変動費などが会社として把握ができ、働くドライバーも基本的にはこれらが「だいたいわかる」ことからくる。

しかし、物流現場は、多くの従業員が多岐にわたる業務を膨大な量の商品に対して行なっており、複数人で同じ業務を行うこともあれば、1人が時間帯によって全く異なる業務を行うこともある。このため、各人が携わった業務の売上や利益などを正確に示すことは構造的に難しい。したがって、現場で働く従業員の多くが、「その日に自分が仕事で生み出した価値がほとんどわからない」のが実態だ。1時間働くと、1000円前後の人件費がかかる(時給をもらえる)ことはわかるが、それがどれくらいの売り上げ、利益につながっているのか、想像することも難しい。誰に対して、どれだけの価値を与えているか、具体的に考えることが難しい。頑張っても、足を引っ張っても時給1000円前後であり、多くの人にとっては生産性や作業の効率を考える必要性を感じられず、生産性の高い物流現場にするというインセンティブが働かない構造だ。

しかし、現場を管理する側は、こういった数値をある程度把握している。「本日は〜ケース出荷するので、この荷主の業務に係る売上はだいたい〜万円。この荷主の業務の利益率は〜%なので、本日の売上・利益は大体〜円」「この荷主の業務は、センターの売上の〜%を占めるので、これを日割りすれば本日の売上は大体〜万円」など、ざっくりとした数字を出すことは可能だ。これをその業務に携わった人数と時間で割れば、「1人当たり1時間でどれだけの売上・利益を生み出したか」といったものが出てくるのではないか。場合によっては、売上から日割りした固定費を差し引くことで、より精密な付加価値を求めることも可能なはずだ。また、そういった方法ではなくとも、「ケースごと、パレットごと、台車ごと、オリコンごと」や、ピッキング、検品、搬送などアクテビティごとなどの大まかな売上や利益、そのほかのKPIを算出することも可能なはずだ。

「どの作業が1時間あたり、どれだけの価値を生み出したのか」といった数字を示せる方法は、現場ごとあるはず。「あなたが1時間この作業を行えば、これくらいの価値を生み出している」「1ケース積みつければこれくらいの利益が出ている」といったことが示されれば、現場では、その業務によりやりがいを持って臨む人間がさらにでてくるのではないか、また、自分が生み出す付加価値を高めるための工夫についても意識が向くのではないかと感じた。しかし、現場がどれだけの付加価値を生み出しているのか、現場に伝える必要があると考えているところは、ほとんどなかった。

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