[ロングインタビュー]シズナイロゴス 伊藤昭人会長 北海道物流についての「ビジョン求める 標準的な運賃の問題点を指摘

平成18年度から7年間にわたり札ト協会長、その後、同25年度から4年間にわたり北ト協会長を務め、今年度まで長く札幌商工会議所の運輸・自動車部会の部会長を務めていた伊藤昭人氏(シズナイロゴス会長、札幌市白石区)に、北海道の物流業界における課題などについてロングインタビューを行った。トラック協会が果たすべき役割や標準的な運賃に対するスタンスなど幅広いテーマに関して、考えを率直に話してもらった。

北海道の物流は様々な課題に直面しているが、全てを包括的に解決することは無理な話。私は、大きく4つの分野に分け、トラック協会が中心となってそれぞれについて対応策を練るべきと考えている。
1つ目は、日用品などの消費者物流。北海道は構造的に製造業の比率が低く、商品の生産が少ない。このため、本州で生産された商品を移入し、消費者に配達している。これが一つ目の分野。
2つ目は、ダンプや鉄骨、骨材を運ぶ物流。
3つ目は、農畜産物や魚介類の物流。季節波動が大きい分野をどうするかという点は、常に北海道の物流にとって課題であり続けている。
4つ目は、過疎化・人口減少・少子高齢化に直面しているローカルな物流をどうするかという点。どのようにして北海道の地方部に商品を届けるかという問題に関しては昨今、荷主の方が強い危機感を感じている。「このままでは地方に商品が売れなくなる」と。そのため、地方部でも維持できる効率的な物流の仕組みを考えていく必要となる。

トラック協会でも、それぞれの分野に携わっている人たちが自分たちの置かれている環境を確認した上で色々と話し合って、「何が問題か」「どうすればいいか」を整理し、その上で「自分たち解決できるものは解決する」「自助努力だけで難しいものは、要望や陳情活動を行う」といったスタンスを明確にして示し、行動にうつすべきだ。
この4つの分野に分けて考えるのが最適なのかは分からないが、トラック協会が自発的に北海道の物流の課題を捉え、将来に向けてどのように物流の形を組み立ててればいいかを検討し、力強く発信すべきだと思う。課題が全て解決に向かわなくても、積み上げ方式でやっていき、「この問題が解決したら、次はこれ」というように少しずつでも行動し、結果につなげていくことが重要だ。

その際に必要なのは「ビジョン」だ。
実現できるかできないかは別にしても、地域の物流のあり方について「大きなビジョン」を描くのがトラック協会の役目。ビジョンを語らないと、何が問題かも気づかない。

北海道で鉄道網の維持が将来にわたって難しいなら、「北海道の物流を維持するには高速道路網を早く整備すべき」と本気になって運動し、説得するための資料を作成し、各所に積極的かつ継続的な働きかけを行う必要がある。その際、「トラック、バス専用車線のため、3車線化してほしい」「連結トラックや自動運転車両の実験のために3車線化してほしい」など言えることは色々ある。

協会で話し合った結果、これからの北海道の物流のために本当に必要なら「第2青函トンネル」「青函連絡船」の実現に向けて訴えてもいい。「トラック主体の貨客混載」の本格的な導入に向けて動いてもいい。地方部ではバスが数時間に1本しか走っていないところも多いが、トラックなら1時間に1本走らせることが可能かもしれない。

運送会社1社だけでは働きかけが難しい「大手小売りチェーン」や「ナショナルブランドのメーカー」同士の共同配送の仕組みづくりに取り組むのでもいい。今後、北海道の物流網を維持していくためには、「商品を売る点では競争し、物流は喧嘩しないで」と荷主企業に発信し、数字を示して物流共同化を行うことで荷主、物流事業者、地域の消費者が全てWIN-WINの形になるような仕組みを物流業界から提案していくことも必要ではないか。

昨今、大手EC事業者を中心に荷主が自前で物流網の整備に着手している。大きな資本によりセンター業務のロボット化などを進めており、こういった投資には、地場の物流事業者はなかなか太刀打ちできない。このままでは、こういった自前の商品と物流網を持っているところに仕事を大きく奪われるかもしれない。その時は、多くの物流事業者はアンダーとして安く使われる可能性が高い。近い将来、そういった状況に陥らないよう、今から北海道の物流システムを考える必要がある。

また、北海道トラック協会に別の点で要望をするなら、毎年のように「北海道・本州間のフェリー等利用について高速道路料金の割引に相当する助成制度の創設・料金の割引」といったことを重点施策として示し、総会などでは大きな垂れ幕を掲げている。私はこれはもう「実質的に終わった話」と認識しており、公に要望することをやめるべきだ。

「フェリーの助成」の要望は、私が札幌地区トラック協会の会長を務めていた時期に、北海道から発信したことだが、数年間にわたり様々な働きかけを行った結果、「財源の問題から実現は難しい」とのことで一旦、話を引っ込め、他の要望の実現に注力した経緯がある。
方針変更の流れの中で「トラックドライバーのフェリー乗船時の拘束時間を休息期間にする」ことへの働きかけを強め、結果、この実現にいたった。
この経緯は、これまで協会の正副会長会議や理事会などで何度も説明をしてきたはずであり、未だに協会が「フェリーの助成」を堂々と主張していることに大きな違和感がある。
当時を知っている行政側の担当者も「終わった話ではないのか」と思っている人間が多いのではないか。本当に成算があるということで、働きかけを進めているのだろうか。
現在でもフェリーが北海道の物流のネックだというなら、「ドライバーが本州に行かなくてもいい仕組み」や「ドライバーの労働時間削減のために高速道路の整備」など、他の形で働きかけを進めた方がいいのではないか。

国も地方も財源が限られる中、費用が大きい事業に対して「実現が難しい」といった見方もある。こういう場合は、例えば「北海道の物流を維持するため、業界でクラウドファンディングによって10年間で100億円集める」といった提案をするなど、様々な働きかけが考えられるのではないか。数千億円かかる事業であっても、「業界で100億円用意する」といった提案をしてみれば、話を聞いてくれる人もでてくるかもしれない。大きなビジョンの実現に向けて、まず「風穴をどうあけるか」という視点が重要だ。

トラックドライバーのフェリー乗船時の拘束時間が休息期間となった際も、このようなことが実現されるとは誰も考えていなかった。これは「ドライバーの最大拘束時間がしっかり守れるように」というビジョンに向けて、業界と行政、労働団体が交渉を進め、連携して取り組んだ結果、形になった。
北海道の最適な物流についてのビジョンを考える組織がトラック協会。北海道が良くなり、運送業界がよくなるよう先頭に立って提案し、働きかけを進めてほしい。

自分達で出来ることは何かを考え、何でも国頼みにしない姿勢が重要だ。いい例が運賃だ。
平成2年に規制緩和が行われ、認可運賃から事前届け出制運賃になった。これにより、運送事業者は各自が「自分たちで適正な原価計算をして、それぞれの適正な運賃を示せる」ようになった。「これくらいの運賃なら運べます」と自分で届け出をして言えるようになり、実質的に運賃の自由化になった。

それにもかかわらず、貨物自動車運送事業法が改正され、これから標準的な運賃の告示制度が導入される流れとなっている。なぜ、すぐに「国が運賃に関与してほしい」となるのか。なぜ国が「標準的な運賃」「適正な運賃」を示すということになるのか。
これは明確な後戻りであり、我々から「考える力が奪われる」ことにつながる。

運賃の算出には、昔はトンキロベースが主流であったが、現在は大きく中身が変わり、個建て、車建て、容積、商品料金×料率など様々な形態がある。運ぶ品物も異なり、それをどのようにして「標準的」と決められるのか。3PLとして業務を受託しているなら、保管、荷扱い、ピッキング、配送など多くの業務を行い、その中で業務ごとに自分たちで原価計算をして、利益が出るように運賃・料金を配分している。この配分についても適正なやり方なんてあるのだろうか。

八百屋だって、リンゴを1個売るのに仕入原価が1個いくら、店舗費用がいくら、人件費がいくら、光熱費がいくら、利益がいくら、などと自分たちで考え、売値を決めている。なぜ、我々は「明確な原価がわかっている」立場にあるにもかかわらず、運賃を国に示してもらう必要があるのか。北海道から東京までリンゴ1箱運ぶのに、各社によって原価が違う中、適正な運賃を誰が決められるのか。せっかく「自分たちで原価計算をして、利益を決められる」立場にあるのに、このチャンスを手放す方向にいくのだろうか。

旅客運送のように、国が決めた認可運賃を採用するならそれでもいいが、それなら違反した際、その業務に対する取り締まりと罰則適用をきちっとするということならば、まだ話の筋が通り、理解ができる。しかし、現在、準備が進められている標準的な運賃の告示制度は、そのようなものではないと聞く。「守っても守らなくてもいい」「参考として」という性格のものなら、何のためなのかわからない。
規制緩和後、運賃の設定について知恵を絞ってきた会社が、後からバカを見るようになることはやめてほしい。

これで現状収受している運賃より低い数字が示されたら、自分で決めた運賃で利益を出している会社にとってはいい迷惑にあたる。これにより既存の運賃水準からの値下げ圧力が強まる会社が出てくると、その会社は従業員への給料も上げられなくなる。労働環境の改善の原資は運賃であり、標準的な運賃によって人材不足解消に向けた取り組みの足を引っ張られる運送会社が出てくる可能性がある。結果、働き方改革が進まず、長時間労働・低賃金の状況が変わらないなら、この産業には人がこなくなるという結果も考えられる。

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